小さなトトと真っ赤なスキー板

 

トトにはとっても大切にしているものがあります。
それは、パパに買ってもらった真っ赤なプラスチックのスキー板。
小さなトトにぴったりの、小さな小さなスキー板です。

今日は楽しいスキーの日。スキー場へ、
パパとママそしてトトの3人でお出かけです。
スキー場へは車で行きます。かぶと虫の形に似た、白くて丸っこい車で、
名前はワーゲンといいます。トトは、その車の後ろの席の、
もう一つ後ろのカバンを入れるスペースに入るのが好きでした。
そこは、小さなトトがねっころがればちょうど良いくらいの大きさです。
いつだってトトは、そのお気に入りの場所に入るとすぐにねむたくなって、
ねむってしまうのでした。もちろん今日もトトはウトウトしはじめています。
真っ赤なスキー板を大事そうにかかえながら。

トトが眠っている間にスキー場へ到着しました。
「トト、ついたぞ」
パパがおしえてくれました。
お天気は良いみたいです。太陽の光が雪に反射しています。
トトは、まぶしくて目を覚ましました。
お気に入りの場所からはいだして、さっそくスキー板をかかえながら
駐車場のはしっこにあるキレイな雪だまりに向かってまっしぐら。
トトは、スキーウェアを着せてもらっていたので、
そのまま雪だまりに向かって、ジャンプ!!!
ポフッという音を立てて、トトの顔が雪の中に。
顔をあげると、トトの笑った顔が雪にのこっています。
まるで雪のお面みたい。もう一度ポフッ。
今度はおこった顔の雪のお面です。今度は泣いた顔・・・。

そんな風にトトが遊んでいるあいだに、パパとママのお着替えもすんで、
さぁ、ゲレンデに出発です。ゲレンデは人でいっぱい。
一番下のリフトにもいっぱい並んでいます。でも、パパとママはスキーが上手。
だから、一番下のリフトなんて使わなくたって大丈夫。
「トト、ちゃんと板を持っているんだぞ!」
と言って、パパは、トトをだきかかえ、
グイングイン!とゲレンデを上っていきます。
スキー板をVの字にしながら、スイスイグイーンとのぼっていきます。
ママも後からついてきます。
そんなときのトトはリフトを見上げて、ちょっとじまんげです。

さて、これからトトのスキーレッスンは始まります。まずは準備体操から。
「いちにいさんし、にいにいさんし」パパのかけ声にあわせながら、
小さい体をくねらせていっしょうけんめい、体操です。
トトはまだ小さいので重たいスキーぐつは、はいていません。
モコモコの温かいくつしたとながぐつ姿です。
スキー板とおそろいの真っ赤なながぐつです。

さぁ、体操が終わりました。
パパがトトの真っ赤なながぐつに、真っ赤なスキー板をくっつけてくれます。
すると、いままでちゃんと立っていられたのに、
くるんくるん。つるんつるん。するする、すってんコロリ。
まずは立つれんしゅうからはじめます。なかなか上手に立てません。
「パパ、もういいよぅ。つまんない。そりで遊ぼうよ」
トトはちょっとふてくされぎみ。だけどパパは、話を聞いてくれません。
「ダメダメ、このくらいできなきゃ」
ママもいっしょになってきびしい一言。
「ほら、トト。スキーの板を「ハ」の字にしてごらん。パパみたいにね」
そうやって、トトのあっちこっち向いている足をそろえてくれました。
すると、どうでしょう。ちゃんと立てたのです。
トトはうれしくなりました。うれしくて足をバタバタさせました。
そしてまた、すってんころりん。だけど、もうふてくされてはいません。
だって、パパとママと同じように雪の上に立てたのですから。

さぁ楽しくなってきました。足をめいっぱいにひろげて、
もう少しでおしりがゲレンデにつきそうなくらいにハの字の形をつくります。
雪が『キュキュキュ、キュルキュル』と音を立ています。まるで雪の演奏会。
音がでるたび、トトのスキー板は前に進んでいきます。
トトの顔には笑顔が広がります。トトが笑うと、ハパとママもうれしそう。
しばらくすると、トトは、パパにおさえてもらわなくても
一人ですべれるようになってきました。
「もう一人ですべれるよー!だいじょうぶ、だいじょうぶ」
トトは一人きりですべりたがりました。
けど、いくらすべれるようになったとはいえ、
パパとママが側にいなくてはまだまだ危ないことがいっぱい。
そこで、パパは考えました。
駐車場へ一度戻って、何やら特別のものを持ってきました。
なんとロープです。トトの体をロープでしばって、
ひとりでどんどん行ってしまわないようにはしっこをパパがもっています。
まるで犬のお散歩みたい。それでもトトは楽しく滑っています。
「トト、ずいぶん上手くなったな、来年は、プラスチックではなくて、
ちゃんとした子供用のスキー板とスキー靴を買ってあげよう」
パパが約束してくれました。
「ホント!パパ。でも、トトはこれが好きなの」
トトは、今はいているこの真っ赤なスキー板がお気に入りなのです。

さて、夕方近くになってきました。そろそろお家へ帰る時間が近づいています。
トトはまだ帰りたくありません。雪だまりに座り込んで動こうとしません。
「トト、もう帰るのよ。早くいらっしゃい」
ママが手をひっぱります。
「いやだ、いやだ、まだ遊ぶの!」
「こんなところで、だだをこねているのはトトだけだぞ!」
パパがそう言った時です。

「あーん!!!やだやだ、これじゃなきゃやだぁー」

近くから女の子の泣き声が聞こえてきました。
小さなトトよりもう少し小さい女の子です。
女の子の腕には、トトとおそろいの真っ赤なプラスチックのスキー板が
しっかりと握られていました。
でも、その板は、どこかにぶつけて折れてしまっています。
どうやら女の子は、新しいスキー板より
この真っ赤なプラスチックのスキー板でないといやだ
と言っているようです。女の子のお父さんとお母さんは困り果てている様子。
トトは、急にだたをこねるのをやめ、女の子をじっと見つめています。
そして、すくっと立ち上がり、タタタタタッと女の子のほうへ走っていきました。
「これ、トトのをあげる。同じのだよ」
そう言ってトトは、自分が大切にしていた
プラスチックの真っ赤なスキー板を女の子にあげました。
女の子は、はじめびっくりしていましたが、
自分と同じ真っ赤なスキー板を手にすると、
「ありがとう」と言ってニコニコ顔になりました。

帰りの車の中で、トトは、パパにいいました。
「パパ、さっきはいらないって言ったけど、
トトに新しいのを買ってくれるよね」
「もちろんだよ、トト。」
パパとママは何だかとっても嬉しそう。
トトは、そんなパパとママを見ていると、
とっても幸せな気分になったのでした。

おしまい

 

へもどる

童話の入り口へもどる