17.エドおかまになる?

 

今日は特別の日。
それは、エドがとうとうおかまちゃんになる日だ。そう、つまり去勢手術の日。
盲導犬としても、普通去勢手術はもう少し大きくなってから行うのだが、
エドは、ゴールデンとラブラドールとのハーフ(正式にはF1と言う)なので、
繁殖犬という道は閉ざされてしまう。

ここで、少し説明しなければならないかもしれない。
まず、「去勢手術なんてしなくたっていいのに!可愛そう!!」と、
動物愛護団体のようなところからクレームが来そうだが、
やはりそうしておかないと盲導犬として勤まらなくなってしまうことが多々ある。
例えば、オシッコをするとき普通オス犬は片足を上げてするけど、
去勢手術をすることで縄張り意識がそれほどなくなり、
におい付けとしてオシッコをすることがなくなる。
これに、いままで「ワンツーワンツー」としつけてきたことが加わり、
人間が促した時にだけ足を上げないまま、お行儀よくするようになるのだ。
もちろんその他に理由はイロイロあるようだけど、難しいことはここではやめておこう。

先ほど「繁殖犬」という言葉が出てきたが、
盲導犬のボランティアの中に、「繁殖犬ボランティア」というものがある。
つまり、子供を生ませるためのボランティアだ。
繁殖用の犬は、実はエドと同じようにパピーウォーカーによって
盲導犬になるために育てられた犬。
だけどその途中段階で、この子は盲導犬には向いていないと判断され、
その気質や性格の良さから「盲導犬」ではなく「繁殖犬」として選ばれた犬たちだ。
「盲導犬になれなかったらどうするの・・・?」という質問の答えのひとつでもある。

しかし、エドは、既にF1。生粋のゴールデンでもラブラドールでもない。
エドから繁殖させてもそこから先は、いわゆる「雑種」になってしまう。
そうなると、だんだんと盲導犬として向いているはずの犬種の性格に
イロイロと問題が出てくるらしい・・・。

つまり、エドは繁殖犬への道は最初からない!
というわけで、こんなにも去勢手術の月齢が早いのだ。

手術は午前11時頃から始まる。
両親と私は用事があって行けなかったので、妹と従姉妹が盲導犬協会まで付き添う。
エドの様子と言えば、自分が手術されるなんてまったくもって知らないわけだから、
綺麗な従姉妹(元モデル)が一緒でいつもよりも興奮気味。
ウキウキしている様子だ・・・。変だな?と思ったことと言えば、
前の日しきりに私と妹で、なくなってしまうエドの○○の写真を撮っていたということ・・・。
(さすがにものがものだけに、写真掲載はやめておこう・・・笑)

妹の話によると、エドは手術室に連れていかれる時、
買い主から引き離されるというにもかかわらず、
協会の人に嬉しそうに付いていったという。しかも、一度も振り向く事なく・・・。妹は

「本当に人間が好きなのね・・・。この犬種が盲導犬に選ばれる理由が
分かった気がするよ」

と言ってました。約半年後、エドと本当に別れ別れになる時も
こんなあっさりとした感じなのかなぁこいつは・・・。

手術を終え、家に帰ってきたエドは、さすがに傷口が痛いのか、
麻酔のせいなのか、ぼぉーっとした表情でおとなしくソファーの下で眠っていた。
従姉妹の彼や私の彼もその日は家に遊びに来ていたにもかかわらず、
興奮して飛びつくこともせず、彼らに撫でられながらうっとりとしていた。

去勢手術をするとおとなしくなるとは聞いていたが、
まさかここまで・・・。とはつかの間・・・。次の日には、いつものように飛び回り

「あーもぉー!!!このクソガキが!」

という罵声を浴びせられ、いつものように

「へっへーん!この新聞紙は俺様のもんだい!」

クチャクチャクチャ(トイレ用にと敷いた新聞紙を食べる音)
といいながら、部屋中を逃げ回っている。

「エド、頼むよ・・・。去勢手術もしたんだしちゃんと盲導犬になってくれなきぁ。
でも、こいつ盲導犬よりも救助犬の方が向いてるかも?ああ、何でもいい・・・。
なんかになってくれー!!芸人(犬)でもいいからぁー」

そういいながら、口の中のぐちゃぐちゃになった新聞紙を取ろうと
格闘している妹でした。

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18.頑張れ、訓練!

 

エドが家にきてからもう7ヶ月・・・。
そういえば、訓練に関するお話をしていなかったことに気づく。
訓練とは、家でする「おすわり」「伏せ」「待て」・・・などなどのことではなく、
盲導犬協会へ行って、ちゃんとした場所で受ける訓練のこと。
といっても、まだまだ完全に盲導犬としての訓練というわけではない。
まさに盲導犬になるための訓練は、私たちパピーウォーカーの手を離れて、
盲導犬協会に入所してからの話である。
では、パピーのときに行う訓練とは、一体どんなものなのだろう・・・。
説明するより何より、見ていただくのが、早いと思うので、
ほんの一例を写真付きで紹介しようと思う!
ちょっと重いかもしれないのだが、ここはまぁ、可愛いエドに免じて
許してください!では、ごゆっくり・・・・・。

訓練の風景←ココをクリックしてくださいね!

いかがだっただろうか?訓練の風景は。
こんな訓練を、月に一度盲導犬協会へ行っておこなっている。
エドは、なかなかの高成績。ほぼすべてのものをクリアしている。
他の兄弟も、始めは怖がってしまって板の上など登れなかった子もいたのだが、
しだいに慣れてきて、楽しげにしていた。
怖がる子の周りには、いつも訓練師の先生がついていてくれて、

「大丈夫よ!ほら、頑張って!」

なんて、みんなから声をかけてもらいながらやっていた。

エドといえば、自ら『おっ!次はこれに登るの!?やっほーぅ!次は次は!』
みたいな感じでそつなくこなしてしまう。私たちが、

「エドちょん!えらーい!!!」

なんて言っているだけで、訓練師の先生達は他のワンコたちに夢中・・・。
『あーん。エド頑張っているのにぃーせんせー見てよぉー』
なんて思いながらの訓練・・・。まあ、よしとしよう。
エドがこうして、何物にも動じなく楽しそうに訓練が出来るのは、
やはり日頃からの積み重ねかもしれない。
そういえば散歩の時などには、公園などで似たような事をして遊んでいる。
ジャングルジムの下を通ったり、ポールのようなものがあれば、
ジクザクに歩かせてみたり・・・。些細なことだけれども、それが良いみたい。
訓練というよりも、遊びといった感じで楽しく過ごしているので、
エドには、盲導犬協会での訓練が、遊びの延長だと思っているらしい。

そんな風にして、後3ヶ月・・・。後3ヶ月で、エドともお別れである。
そして、エドにとっての本物の訓練がはじまる・・・。
楽しくも、本格的な訓練が・・・。頑張れよ!エド・・・。

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19.雪との出逢い

 

エドをスキーへ連れて行った。と言っても、まさかスキーをさせたわけではない。
毎年家族で行くスキー場に、今年はエドも一緒に行った。
エドは雪を見るのは初めて。何せ家の中で生活している犬だから、
始めは、寒いし冷たいし、ちょっと怖がるかなと思ったけど、全然そんなことはなかった。
さすが、『犬は喜び庭駆け回り・・・・』といった感じ。

それでも、やはり預かりものの大切な犬。
足が冷たくないようにと、肉球にクリームを塗ってあげる。
こうすると、油分で保護されて、
直接雪や氷の上を歩いても直に冷たさは伝わってこない。

スキー場といっても、エドをゲレンデに連れて行っては危険度100%
(スキーヤーにとってもエドにとっても)なので、家族で交代しながらエドと遊ぶ。
夏は、原っぱのような空き地になっている場所でエドに
長―いリード(10mくらい)を付けて遊ばせる。
自分が飛び跳ねた時にできる雪のコロコロしたかたまりに、興奮しながら飛びつく。
そうするとまた、雪が舞って、エドの鼻をくすぐる。
パクパクパクと雪を食べながら、前進していく。
とっても楽しそうなエド。

「コラコラ、そんなに雪を食べたらお腹こわすよ」

と妹のすももに注意されながらも、顔を雪の中にスッポリ入れたり出したり。
寒さなんて全然へっちゃら!といった感じ。
以前、急に寒くなって、風邪をひいた事もあったのに、
こうゆうシチュエーションでは、まったく動じないといった様子。
まあもちろんこの雪の中に何十時間もいれば風邪をひくのだろうけど・・・。

雪の中でエドは、どんなことを思ったのだろう。
始めてみる雪、冷たい雪。私たちとしては、エドと雪で遊びたいという
単純な気持ももちろんあるけれどもやはり、盲導犬になるためのイロイロな経験の
一環として、こうして雪を見せに来ているという事実もある。
晴れてエドが盲導犬になれたとして、もしかすると雪が多く降る地域に住む、
視覚障害者の方につくこともあるかもしれないからだ・・・。
そんな時、目の前に立ちはだかる雪の壁にびくついていては仕事にならないし、
逆に、「わーい!なんだこれー!!」と遊びだしても仕事にならないというわけ。
だからなるべくイロイロなことを経験させて、イロイロなことに慣れさせて、
そして立派な盲導犬になってもらいたい。

エドとのお別れまで、あと約2ヶ月・・・。
私たち家族は、後どれだけのことをエドに経験させてあげられるのだろうか・・・。
いや、エドと共に経験できるのだろうか・・・。

 

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20.入所日決定の知らせ!!

 

つい昨日、後、2ヶ月でエドとお別れ・・・。
なんて書いたのに、まさにアップした次の日に、盲導犬協会から急な連絡が入った。
エドの入所日が決定したのだ!!!なんと、5月の7日(日)である。
ということは、あと1ヶ月もないのだ・・・。
何てことだ、入所日が1ヶ月も繰り上がったのである。
ということは、同時にエドとの別れもあっという間にやってくる。

その電話をもらった私たちは家中パニック・・・。

「もう少し暖かくなったら、エドを連れて、バーベキューでもしに行こう!!」
「もちろん、お肉はおあずけだけどねー」
「それって結構酷だよねー」
「温泉にも行く??」

なんて、そんな暢気なことを話していたものだから、

「えぇぇぇぇー」
「そんなぁぁぁぁぁ」

ってみんな口々に叫んでいる。猫のことが心配で、

「早く平穏な日々が戻ると良いのにネェー、maomao!」

なんて言っていた私も、さすがにちょっと寂しい。

入所日が早まったのは、協会内で訓練中の犬達が、予定よりも早く卒業したため、
協会に犬がいなくなってしまったわけなのだ・・・。
で、訓練師の人や協会の施設自体を遊ばせておくわけにも行かないので、
もっとも入所が近い、エドたちの兄弟が繰り上がり入所するわけである。

もともと、協会の犬なわけで、返さなければいけないのはあたりまえだし
分かってはいる。でも、あと2ヶ月の間で思い出をいっぱい作って、
納得のいくお別れをしようと思っていた私たちにとって、これは、予期せぬ展開。
もしかして、盲導犬協会の策略???なんてバカなことも思ってみたりして。(笑)

私たちとの別れがもう後すことでやってくることも知らず、
エドは今日も部屋中を駆け回り、絨毯をひっぺ返してはガウガウとじゃれ、
フローリングの床につめの跡をいっぱい残しているのでした・・・。
いなくなったら、本当に静かになるのだろうなぁ・・・・・。

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21.最後の旅行

 

GWを使って、私たち家族は、エドと最後の旅行に出かけた。
思い出作りと言えばよいのだろうか。
といっても、エドには後数日でお別れだなんて事はわからない。
なんとなく私たちの心理状況を探ってはいるものの、
まさかバイバイの日がやってくるなんて、思ってもいないだろう。
車の中で嬉しそうにはしゃぐエドを見ていると少し切なくなる。

夜の8時過ぎに家をでて、車で約2時間半。
新潟の石打という所にあるリゾートマンションに到着する。
ここは、以前エドが雪と初めて出逢ったスキー場のあるところ。
もうすっかり雪は道路から消えている。道路から離れた木々の影に
ほんの少し雪のかたまりが残っているくらい。見た目にはまったくないのと同じくらい。
そんな風景も、エドが楽しそうに雪と戯れていたシーンを思い出させる。
とりあえず今日は夜も遅いし、明日ゆっくりとエドと遊ぶことにしよう。

次の日の朝。あいにくの雨・・・。エドを散歩に連れて行けない。
部屋の中で、ひたすらゴロゴロとしている。
一緒に連れて行った
猫たちも、布団の中で一緒にゴロゴロ
外には遊びにいけなくても、なんとなくこんな平和な感じが幸せと思うのか、エドも嬉しそう。
東京の家では、家族4人が同じ時間、同じ場所にいてゴロゴロしていることなど
めったいないから、人間大好きなエドにとっては、私たちがただ側でゴロゴロとして、
たまに「エドちょーん」と身体をナデナデしてもらえることに幸せを感じているようだ。
そんなエドを見ているとまた、切なくなる。

実はこの日、私は体調が悪く、熱も随分あった。
本当は東京でのんびり静養しながら猫と一緒にお留守番も考えたのだが、
やはりエドとの最後の旅行、行かないわけにはいかない。
私にとっては天気が悪いことは逆に好都合でもあった。
猫と一緒に布団の中でゴロゴロしていられるし、エドとも一緒にいられるし、
そして日頃の疲れも癒せるし。
とはいうものの、今回の旅行の目的は、エドにもっともっとイロイロな経験をさせてあげること。
散歩に行かなければ狭い部屋の中で過ごすだけでは、東京にいる時と変わらない。

窓の外を見てみる。朝よりは随分小降りになったようだ。
このくらいの雨なら、雨ガッパを着せていけば風邪をひくこともないだろうと、
私以外が、エドの散歩の支度をはじめる。私も行きたいという気持ちはつのるものの、
頭は痛いし、身体はだるしいで、やはり部屋で寝ていることに・・・。

妹の話では、散歩中、ほんの少しの雪だまりの匂いを嗅いだとたん、
急に興奮しだして、横っ飛びしたらしい。どうやら以前雪の中で遊んだ楽しい思い出を
思い出した様子。盲導犬になることができて、雪が降るような地域で仕事をするようになっても、
雪を恐がることはないだろうと私たちは確信しながら、
しかし逆に、仕事中に「きゃっほぉー」といきなり雪に突進していったりしたらどうする???
なんて考えたりもして。でもきっと、今後の訓練でそんなことはなくなるのだろうなぁと思う。
だけど、思い出までは消えないはず。
雪を見るたび、エドは私たちとの思い出を思い出すのだろうか・・・。

さて、今日の夕食は外食。
エドをひとりマンションの部屋に残していくのもかわいそうな気がしたので、
そのまま車に乗せて夕食を食べに出かける。
といっても
部屋には猫もインコもいるわけだから、一人ぼっちというわけではないのだが、
マンションの7階までエドを運んでいくのはなかなか大変。
基本的に、抱いていくか、カゴの中などに入れて運んでいかなければならないからだ。
といっても、30キロもあるエドの体重。そう簡単に抱けるはずもない。
カゴの中に入れたとしても、結局そのカゴを持ち上げるか、引っ張っていくしかないので、
ちょっと重労働。大型犬を飼っている家では、結構大変な労働力なのだ。

そして、エドを乗せたまま車は目的地へ到着。約2時間は夕食についやしてしまった。
その間、エドは車の中でお留守番。しかも、キャリーの中に入れたままだったので、
相当つまらなかったらしい。私たちが、「あーくったくった」とおなかをさすりながら
車に戻るこには、ちょっとふてくされていた。ゴメンゴメン、エド。

次の日もあいにくの雨。やはり散歩には出かけられない。
そして私もまだ熱が下がっていないようで、頭がガンガンする。
外に出られないならと、部屋の中でビデオ撮影会。
ひとりひとり、エドと並んでビデオに写る。先ずは父から。

「エドが来て、どうでしたか?」

「いやー。自分がこんなに犬が好きだったなんて、初めて知りました。」

とカメラに向かって照れる父。確かにそうだった。
以前も犬を飼っていたことがあるのだが、その犬には決して顔を舐めさせる
というようなことはしなかった。番犬としてずっと外にいる犬と、
家の中で飼っているという違いはあるものの、そのデレデレぶりといったらない。
自分からエドに向かって「ちゅーしてぇー。お父さんにちゅー」なんていっている。
結構恥ずかしい。エドといえば、一度はペロンと顔を舐めてはくれるものの、
何度も何度も「ちゅー」なんて言われるとさすがに「ひつこいなぁー」と思うのか、
申し訳なさそうに顔をそらす。その申し訳なさそうな顔がまた可笑しい。

そして次は母。

「お母さんはどうでした?」

「大変だったけど、楽しかったわよー家の家具はボロボロになったけどねぇ」

と苦笑いをする母。母は部屋が散らかっていたりするのが大嫌いな性格。
だから、絨毯がボロボロになったり、お気に入りの椅子がガジガシと
かまれていまうことに対してはじめは相当「キィー!!!」となっていた様子。
でも次第に「あらあら、しょうがないわね。
ソファー穴あいちゃったのね。ハハハ」
なんて言っている。

そして私。

「お姉ちゃんはどうでした?」

「えーっと。基本的に私の生活は変わらなかったですー。ひたすら猫が心配でしたー」

正直なところ、猫の精神状態を一番に考えていた私としては、
たまに遊んだり、たまに面倒を見たりというのがほとんどだった。
最近は猫も馴れてきたものの、始めは、エドを可愛がっていると、
猫たちの視線がまさしく嫉妬の目で輝いていたし、
もっとエドを可愛がりたいという思いもあったものの、どうしても猫優先の生活だった。
そうしていても、maomaoは、精神的にそうとうストレスが溜まってしまったようで、
一度は呼吸困難のような状態に陥って、会社を休んで病院に連れて行ったこともあった・・・。
病院検査ではまったくの以上なし。
今思えば、maomaoの最大のお芝居だったのかもなんて思ったりもしている。

最後に妹。

「言い出しっぺの張本人!どうでした?」

「エドを預かってからしばらくは、本当に鬼が家にやって来たと思いました。
でも、今ではこんなに良い子になって。どうか立派な盲導犬になっておくれぇー」

パピーウォーカーをやりたいと言い出した妹。
条件の中に、誰かひとりでも家にずっといられて、犬の面倒を見られる人がいること。
というものがあった。妹はフリーのイラストレーター。だからずっと家にいるわけで、
これはできる!!と思ったらしい。しかし・・・、
彼女はパピーウォーカーを始めてから気が付いた。
家にいるといっても、家で仕事をしているだけだということに・・・。
仕事中は、仕事部屋にこもりっきりになるし、エドの面倒をずっと見られるわけでもないから、
しまいには、自分の仕事部屋にまでも小屋とワンツーの場所を作って
仕事をしながらエドの世話。これは大変だっただろうと思う。私だったらきっと出来ない・・・。

そして、すべてを撮り終えた後、
エドが家に来てから今日まで撮りつづけたビデオの鑑賞会が始まった。
初めて盲導犬協会に行ってエドを引き取り、
帰りの車の中、私の腕の中でスヤスヤと眠ってしまったエドが、
もう今ではこんなに大きくなった。少しずつ、少しずつ成長の過程を見ながら、
「きゃーかわいい!」「小さかったー」なんて言う私たちに、
エドは少し不満げ・・・。
ビデオの中でエドと呼ばれている子犬が、
何ヶ月か前の自分の姿であることをどうも理解できない様子。

ふてくされ気味に小屋の中に入ってしまう。
「エド! これはエドだってばぁ」といっても分かるはずもない。
しばらく見ているうちに、ビデオの中のエドも成長してきて、
今と変わらないくらいの体格になってきた頃、どうやら「あれ?コレ、僕?」
と思ったのか、急にTV画面を見るようになった。
一緒に映っている家族はすぐ側にいるのに、変な箱の中にもいて、
僕のこと呼んでいる???何で???という表情。もう、
TVの自分にくぎ付けだ。

そんな風にして、二日目の夜が過ぎてゆく。

エドとさよならまで、あと3日。

5月4日の真夜中、(もう5日だけど)私たちは東京に帰ってきた。
GWのラッシュで随分長い間車に揺られていた。
パーキングエリアでエドにワンツーをさせて、また車に乗り込む。
エドは、車が止まると、食事の時のようにまた置いてかれると思うのか、
少しそわそわする。そこがまた可愛い。わざと置いていくようなふりをしたりして・・・。
でもエドは決して鳴いたりしない。ご主人様の言うことは絶対なのだ。
そんな風に育ってくれたことに感動したりする。

5日は1日、エドとお別れをしたいという、私の友達の子供なんかが集まったりして、
なかなか楽しい時間をエドも過ごせたようだ。
私の熱もどうやら新潟でのんびりしたおかげ下がったらしい。
おかげで今日6日、今こうしてパピーウォーカー日記を書いている。

エドとのさよならは、とうとう明日。

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22.さよならエドワード

 

11:30には家を出る予定。今日、5月7日がさよならの日とも知らずにエドは、
いつものように紐かなんかを見つけては、
嬉しそうに遊んでいる。
それでも私たちがなんだかソワソワしてエドの小屋や今まで使っていた毛布などを
片付けているのを見て、少し落ち着かない様子。とはいえ、
これっきりのさよならを理解できるわけもなく、きっと、みんな遊びに行っちゃって
僕だけ置いてかれるの??ぐらいに思っているのだろう。
キャリーの中に自分から入っていって、
「置いてかないでね、僕イイコでしょ!」
なんて目をしている。その証拠に、車に乗せてあげたら、

「なんだなんだ!僕も遊びに連れて行ってくれるの!!」

そんな感じでウキウキしている。本来、足元に座っていなければいけないのに、
すっかりシートの上にお座りしちゃったりして、
外の風景をワクワクと眺めている。まるで、

「これからどこに連れて行ってくれるのぉー」

とでも言っているように・・・。

「エド、だめだよ、下に下りて!」

といいながらも、

「最後ぐらいいいじゃん、だっこしていきたいよ」
「やっぱり、ダメダメ」

と人間も葛藤している。

そうして、12:30には盲導犬協会に到着してしまった。
こんな日に限って、いつもより早く着いてしまう・・・・・・。
エドは、ここに来れば
兄弟姉妹たちに会えることを知っているから、とっても嬉しそう。
車から一目散に降りようとする。

『そんなに嬉しそうにしないでよ、お別れなんだからエド』

と心の中で思いながらも、他のパピーウォーカーの人たちと挨拶を交わす
。何人かの人は、もう既に泣いたような目をしている。
やはり、9ヶ月家族として生活してきた思いが込み上げてくるのだろう。
妹も何度も耐えきれずに車の中で泣いてしまっていた。
それをエドは、不思議そうな顔で見ていた。

入所式が始まるまで約1時間はある。私たちは、協会の周りを散歩した。
エドと最後の散歩だ。心なしかエドが淋しげに感じるのは、
私たち人間の気持ちが見させる心の幻だろうか。
毎日の散歩でしつけられたように、エドは決して引っ張ることなく、
人間の横にぴったりと
寄り添って歩く。横断歩道の前では、ちゃんと止まる。
もう、体が覚えてしまっているようだ。そんなエドに

「good!」

の声をかけてあげる。

預かり始めた頃、「good」なんて、とってもこっぱずかしかったのが、
今ではすんなりと口から出てくることがまた悲しい。「good」の言葉を耳にするたび、
私たちはエドを思い出すのだろう。

1:20を回った頃、盲導犬協会の人が、集合をかける。
みんなはラウンジに集まり、協会に返さなければいけないものなどのチェックや、
犬それぞれの性格などをレポートに書いた。

『こんな紙一枚に、9ヶ月ものイロイロな思い出を書ききれっこないよ』

なんて思いつつも、いざとなったら言葉が見つからない。そのレポートとは別に、
エドについて気づいたことを家で便箋に何枚も書いてきているので、
もう書くことないと思っていても、ありすぎて忘れていることなどを何とか書き出そうとした。
そうやって今までのことを思い出すたびに、また涙が込み上げてくる。
その間、エドは足元でとってもおとなしく
ダウンして待っている。

『こいつ、盲導犬になれるかもしれない!』

なんて、親ばかになってしまう瞬間。

2:00に記念撮影会が始まる。盲導犬になったときにつける
ハーネスというものをつけて、写真を一緒に撮ってもらえるのだ。
盲導犬になることができてもその働いている姿を見ることができない、
私たちパピーウォーカーのために、憧れのハーネスをつけて、
凛々しく変身した犬たちの姿を写真に残してくれるのだ。
とはいうものの、憧れているのは犬たちではなく人間たちなわけで、
エドにしてみれば、変なものがついているー!!!といった感じなのだろう。
ハーネスを就けたもらったエドは、なんだかへっぴり腰で格好悪かった・・・・・・。
こんなんで本当に盲導犬になれるの?と、また不安がひとつ。

そして撮影会は無事終わった。とうとう、引渡しの瞬間がやってくる。
今まで使っていたブルーのリードをはずし、訓練用のリードに付けかえる。
エドは、
少し不安そうにしている。そして、協会の人が言う。

「一年間、立派に育ててくださってありがとうございました」

ああ・・・・・・。そう、そうなのだ。エドは私たちの犬ではないのだ。
エドはもともと協会の犬で、私たちは預かっていただけなのだ。
協会の人からお礼を言われ、今更ながらに気づかされる事実。
分かってはいてもやっぱり辛い。今までの出来事が、そうまとうのように頭の中を駆け巡る。
エドに噛み付かれて、ひっかかれて傷だらけになった腕。
下着ドロボーの犯人はエドだったこと、猫にパンチをくらわれて落ち込んでいるエド。
おなか壊して小屋の中をうんちまみれにしたエド・・・・・・。
書き出したらきりがないほどのエドの思い出。

でも・・・・・・もう、お別れです。

協会の人に連れて行かれ、犬舎のほうへ歩いていくエド。
散歩の時と同じようにちゃんと左側について、上手に歩いて行く。
もう、私たちに逢えないなんてまさか思っていないだろう。

「どこに連れて行ってくれるの?」

そんな歩き方で、足取りは軽い。ズンズンと犬舎の方に向かって歩いて行く。
このまま、一度も振り向くことなくエドは犬舎へと入ってしまうのだろうか。

「エドワード!!!」

父が思わず叫ぶ。妹は、

「ダメじゃないか!名前呼んだら!!」

と父をさとす。みんな涙でエドが良く見えない。
でも次の瞬間、エドが微かだけど振り向いた。
その時私はたまたまデジカメの
シャッターをきっていた。

でも・・・・・・。エドはこちらに戻ってこようとすることもなく、すぐに前を向いて、
盲導犬協会の犬として立派に私たちとさよならした。

2:15の出来事。

 

今こうして、家に戻ってエドのいなくなった静かな部屋でこれを書いている。
エドは今ごろ犬舎のなかで兄弟姉妹たちと一緒に楽しくやっているだろうか・・・・・・。

これからエドには盲導犬への適性検査からメディカルチェック、
それをパスして初めて訓練に入る。そして、約1年間、きっと試験にパスしてくれて、
盲導犬としての生活が始まるばすだ。

私たちはエドがりっぱな盲導犬になってくれることを信じている。
大丈夫、きっとエドなら、大丈夫・・・・・・。頑張れエド!負けるなエド!
訓練は遊びの延長でとっても楽しいって!だから、きっと毎日楽しいよ!
私たちは側にいてあげられないけど、きっと協会の人たちや、
エドの兄弟姉妹たちがいつも側で見守っていてくれるよ! だから頑張ってねエド。

そして、私たちのこと、決して忘れないでね。私たちは絶対に忘れないから・・・。

ううん、忘れられないから・・・・・・。

おしまい

 

 

長い間、このパピーウォーカー日記を読んでくださった方々には大変感謝致します。

一応パピーウォーカー日記はこれで終わりますが、盲導犬協会の方が、その後のエドの様子などを

教えてくださるとのこと。写真なども送ってくださるとのことです。

ですから、また続・パピーウォーカー日記として続きが書ける日がくると思います。

ということで、番外編@:エドのその後へつづく。

 

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