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結婚しました。
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 「結婚に憧れていた?いなかった?」

と聞かれれば、「いなかった」と即答できるだろう。これは別に「したくない」という意味ではなくて、愛し合う二人にとって、結婚という紙っぺら一枚のことが何になるのかという風に思っていた。それに、実際もしも結婚するのであれば、自分自身の結婚適齢期は35歳頃だろうと勝手に決めていた。その年に近づいてきたら、ボチボチ考えれば良いとも思っていた。

 人によってはそんなの遅すぎ! という人もいるかもしれない。子供を産むつもりなら、もっと早く結婚した方がいいとか、そんなの結婚できない人の負け惜しみみたいと言う人もいるだろう。でも、どう思われても、私自身の気持は結婚に向いていなかった。 

 恋人がいなかったわけではない。仕事人間というわけでもなかった。確かに趣味は多くて、結婚したらなかなか独身の時のように遊びにいけなくなることは分かっていたけど、幸運な事に恋人とはほとんど趣味は同じで、金銭的な面を除けば、マイナスになることなんて何もなかった。金銭的にも、私が仕事を続けるつもりだったから、本当に何も問題はなかった。

 それでも私は、プロポーズをされて、なかばあいまいにOKした後、本当に結婚するのを1年先に延ばして欲しいとお願いした。結局、なんだかんだと、彼が予定していた時期よりも1年と2ヶ月延びた。

 "マリッジブルー"っていう言葉がある。結婚が決まる前まで、私にとっては縁のない言葉だと思っていた。「大好きな人と一緒になれるのに、ブルーになっちゃうってどうゆうこと? 信じられない」と、そう本気で考えていた。

 でも、違っていた。

 不安は日々膨らみを増して大きくなっていく。会場が決まっても、「招待状を出していないから、やめるなら今のうち」と思った。結納をあげた日も、「仲人を立てないで良かった。やめる時にイロイロ大変だし」と思った。招待状を出しても、「まだ式を挙げていないから大丈夫」と思った。結婚式当日も、「まだ籍を入れていないから」って思った。婚姻届をもらいに行ったその場で届け出してしまうつもりでいたら、証人の名前がなくては駄目な事を知って「結婚が延びた、セーフ」って思った。

 どうしてだろう。大好きな人と一緒になれるっていうのに。もちろん、彼は完璧な人ではないし、嫌いな面もたくさんある。結婚という現実を突きつけられて、嫌いな面がクローズアップされてしまっている事も事実。だけどそんなこと、たわいもない事。彼も私の嫌な面が見えてしまっているかもしれないし。だからフィフティー・フィフティーのはず。それでも、得体の知れない不安が心の中をモヤモヤ、モヤモヤ。マリッジブルーなんてもんじゃない。マリッジブラックな感じ・・・・・・。

 そうして、ついに運命の6月1日がやってきた。婚姻届を区役所に提出する日。家で書いてきた婚姻届を、受付の窓口に提出する。窓口の人の

「おめでとうございます」

の言葉を聞いても、まだ実感がわかない私がいる。そして、私の親と、彼の親の戸籍が運ばれてきた。

「結婚するという事は、親の戸籍から抜けることになるんです。そして、二人で新しい戸籍を作るんですよ」

そんな説明が、私の胸を揺るがす。お互いの名前が、お互いの親の戸籍から消えて、私たち二人だけの新しい戸籍が生まれた。まっさらな戸籍に、私と彼の名前だけが書かれてある。もちろん子供の欄も空白。これから増えていくはずの家族のために、まっさらな新しい戸籍が出来上がった。

 新しい戸籍が生まれて、新しい家庭がひとつ生まれる。この世界にはそうやっていくつもの家族が暮らしている。家族それぞれイロイロな幸せと、イロイロな問題を抱えながら生きている。

 そんな風に、目の前の現実だけでなく一歩引いて周りを見てみたら、私が抱えていた不安なんてとってもちっぽけなものに思えてきた。もちろん、不安は消えたわけではないけれど、ましてや日増しに増えていったりもするけれど、だけど、そんな不安を包み込んでくれる人がいるということを、私は幸せに思わなくちゃいけない。

 そしてもうひとつ、とても大切な事に気づいた。不安なのは私だけではない・・・・・・彼だって不安なのかもしれないって事。そして、これからずっと彼の不安や苦しみを包み込んであげなくちゃいけないと思った。そうしたいと思えた。楽しい時は二人一緒に楽しんで、つらい時には優しくお互いを包み込んで・・・・・・。

そうして、私は紙っぺら一枚だけでなく、心と心で・・・結婚しました。

 

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