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言葉との出会い
〜私が言葉を大切にしたいその理由〜
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 私には、「私自身を変えた。」と言っても過言ではないくらいの衝撃的な言葉との出会いがある。それは、今から約10年以上前、確か私がまだ高校生だった頃。

 その頃の私の口癖は、いつだって「あーあー。早く帰りたいなぁ」だった。別に学校が面白くないからとか、友達がいなかったから早く家に帰りたいとか、そんなことではなかった。なんとなく、いつも口にしてしまう言葉だった。帰りたいといっても、家に帰りたいというわけでもなかった。事実、家でのんびりとしている時でも、ついつい溜息混じりに、「帰りたいなぁ・・・」なんて呟いてしまうこともあった。何処に帰りたいのかも分からなかった。何処に帰りたいのか探してみても、思い当たる所は何処にもなかった。なんとなく孤独で、何をすればいいのかも分からなかった。
自分自身が今何処にいるのかも分からなかった。
 もしもこのまま、自分がこの世から消えていっても、世の中は何も変わらないのだろうなぁなんて考えることもあった。かといって、夢も目標も無い、無気力な・・・というものでもなかった。自分の夢はちゃんと持っていた。

 役者になろうと思っていた。その夢に向かって私なりに努力はしていたし、それなりの成果も少しずつだけど、現れるようになってきた。でも・・・。何かが違っていた。なんとなく、無理があった。無理があったというより、やはり「違う」という感じだった。出来事だけがドンドンと私の周りで過ぎていって、いつの間にかそんな風になっていた。そんな感じがしていた。私がいなくても、この出来事は起こっていたのだろうなと、いつも思えた。ちょっとだけ「死」というものにも興味を持った。毎日が、ただ淡々と過ぎていくそんな生活の中で、一体私は何処へ行きたいのだろう。そういつも思っていた。

 帰りたいのに帰る場所もない。それがどこすらも分からない。不安定な精神状態が続いていた。どうしてそんなにも不安な気持ちになるのだろうかと考えてみたところで、答えはいつも同じ・・・。何も分からない。どうすればいいのか分からない。だった。夢に向かってがむしゃらに頑張ってはいても、何か物足りなかった。どこかで誰かが勝手に事を運んでいるような、本当は自分がそこに存在していないのではないかと思うくらい切ない日々が続いていた。

 そんなある日。すべてを包み込んでくれる運命の言葉に出逢った。
地下鉄の電光掲示板、いわゆるポスターの中にその言葉はあった。ずっとずっと探していたもの・・・。ずっとずっと何処に帰りたいのかと考えていた場所・・・。
その答えがそこには書かれていた。

「なーんだ。探していたのは自分だった」

 涙が止まらなかった。ただただそこに立ち尽くしていた。そのポスターの前で、「なんだなんだ、そうだったんだ。そうだったんだよ・・・。」とつぶやきながら・・・。

 私を変えた・・・いや、私自身を教えてくれた言葉。それは、広告のキャッチコピーだった。今から思えば、そのキャッチコピーのコンセプトが、「買い物は自分を見つけるってこと。自分が買いたいと思ったものは、自分を表現してくれるアイテムの一つ。欲しい物を見つけるってことは、自分を探すことと同じ!」っていうものなのだろうなぁ。と考えることが出来るけど、その時は、そのキャッチコピーそのままがストレートに私の心に響いてきた。「なんだ・・・。そうだったんだ・・・。私が帰りたいと思っていた場所は、ずっと探していた場所は、自分自身・・・本当の自分の姿だったんだ」本当に涙が止まらなかった。私の中でモヤモヤとしていたものがすっきりと、そしてくっきりと姿を現して見えてきた。

 私は、役者になりたいのではなかったのかもしれない。職業がどうのというのではなく、お芝居をすることで、自分自身を見つめ直す機会を作っていただけだったのだ。自分を表現する何かが欲しかったのだ。それが、お芝居という手段であっただけ。

 そして、その言葉を境に私の夢は変わった。「自分自身になる」ということ。どんな仕事をするにしても、どんな遊びをするにしても、「自分らしくいよう」それが、私の夢になり、人生の目標になった。そして今、何の因果かコピーライターという仕事をしている。私の発した言葉で、どこかの誰かが、笑ったり泣いたり、怒ったり悔やんだり・・・。あの時の自分と同じ思いをしている人がいるのかと思うと、とても不思議な気持ちになる。そして、言葉の威力を実感している。

 言霊と言う言葉かあるけれど、それは本当に存在するものだと思う。なにげない一言でも、言葉の魂はその人の人生をも変えてしまう。

 私は自分の仕事に誇りを持ちたい。
言葉を通して人に何かを伝えるという仕事に・・・。

 そして願う。どうか私の言葉が、どこかの誰かの心に響きますように・・・。
そしてその人が、どうぞ素晴らしい人生を歩んでいけますように・・・。

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