22.ミニ万里の長城?

 今日の予定は、英国で最も古い街のひとつである古都ヨークへの旅。ヨークへは列車で約2時間。ノースヨークシャーの州都であり、交通の便もとても良い。1ヶ月有効のブリティッシュ・レイル・パス

(フリーパスみたいなもの)を手にした私は、後半の1ヶ月で、行ける所は手当たり次第行っておこうと思っている。パスについていた地図の行く予定の街には、マジックで丸くチェックもしてある。今、列車に揺られて向かっているヨークも、そんな街のひとつだ。

 ヨークに着いたのはお昼頃。今日は天気もいい。風は多少冷たいが、一人で街並みを歩き回るにはちょうど良い気候。それほどお腹も空いていなかったので、さっそく観光を始めた。その前にまず観光案内所へ行き、ココの地図を手に入れる。観光案内所の人たちは大変気さくで親切。今日一日がとても楽しくなりそうな事を予感させてくる。

 観光案内所を出て、クイーンストリートを歩きながら出発点に決めているミッケルゲイトへ向かう。

ここから城壁に登ろうと思っている。城壁の上に出る入り口になっている門で、ちょうど道路と道路を挟んで建っている横断歩道のようなものだ。城壁とは、ローマ帝国の名残であるヨークを取り囲む壁(City Wall)のこと。街を囲むように建っている壁の高さは、約20~30m(多分そのくらい?)。今日はその城壁の上をくるりと一周回りながら、面白そうな所があったら城下?に降りてゆっくりと見てみようと思っている。さすがにもとは城があったという事だけあって、侵入者を拒むような重々しい感じがする。

 入り口へ向かい、狭い階段をジクザクに上がっていくと、目の前に街全体が広がった。城壁と美しい自然に囲まれたその雰囲気は、まるで万里の長城。まさにミニサイズの万里の長城だ。城壁の中、外に立ち並ぶ歴史的建造物もまた、私に感動を与えてくれる。まるでそこだけ時代か遡ったような、不思議な感覚が私を襲う。まずは、英国最大のゴシック建築物であるヨークミンスター寺院に向かい、城壁を左進む。

 たまにカメラのシャッターを切りながら、のんびりと30分ほど歩いただろうか、進む先に英国最大のゴシック建築物、ヨークミンスター寺院が見えてきた。1220年から250年もの年月をかけて建てられたというこの寺院、その荘厳さはやはりすごい。ロンドンのウエストミンスター寺院(ダイアナ妃の葬儀が行われた所)に並ぶ、英国の代表的な寺院だ。私は城壁から降り寺院へと足を速めた。さすがに観光名所、ヨークのシンボルだけあって観光客が多い。どうやら寺院は修復中だったらしく、中には入れない様子?しょうがないので私は、寺院の周りを一周し何枚かの写真を撮った。ゴシックの建物は、どんな角度から撮っても絵になる。ほんの一部をファンイダーで切り取っても、そのカタチ、ラインそのものが、芸術的なものとなって写真の中で表現される。そんな写真での表現を楽しみながら、私はまた城壁の上へと戻っていった。下からみるヨークミンスター寺院も良いが、城壁の上から少し対等な気持で見る寺院もなかなか好きだ。また写真を一枚。

 ヨークミンスター寺院の背中を見ながら城壁を歩く。駅の観光案内所でもらった地図を見てみると、城壁の内側、中央あたりにどうやらショッピングストリートがあるようだ。そこで何か可愛らしい小物を見つけることが出来るかもしれないと思い、もう一度城壁を降りて街の中心部へ向かった。中心部のわりには、やたらと狭い道が多い。路地がいくつもあって、その集合体が街の繁華街、ショッピングエリアとなっているようだ。小さな雑貨屋がいくつも並ぶ、何だかおとぎ話に出てくるような可愛らしい路地があったりして、ココなら素敵な小物見つかりそうだと心はウキウキしていた。しかし、街の中心に位置するショップエリアだけあって、どうしても観光客向きのグッズが多い。たとえば、ヨークの名前が入ったマグカップとか。いわゆるコテコテのお土産が多いのだ。街並みの雰囲気には十分満足をしたものの、いまいちそこで何かを買う気にはなれずに、写真ばかりを撮ってまた城壁へと戻って行った。

 街の中心部から東南の方向にむかって歩く城壁へ戻る道のりは、今まで通ってきた道と違ってとても静かで、観光客どころか、地元の人ともほとんどすれ違うことがないくらいに落ち着いた雰囲気だった。さっきまで居た騒がしい場所とほんの少ししか離れていないとは信じ難い。あるといえば小さな教会(墓地)が2軒くらい。それでも街の中心にいた時よりも、なんとなくヨークに来たというか、ロンドン以外の町にやってきたといった感じ。多分ここら辺は、観光というものとはかかわりのない普通の住宅街なのだと思いながらその雰囲気を楽しんでいると、なにやら興味深い一軒のショップが目に付いた。スタンプ屋さんだ。日本でもずいぶんポピュラーになって、どこにでも可愛らしいスタンプが売られるようなったが、今でも個性的なスタンプを見つけようとすると輸入雑貨屋や、それなりの場所に出向かなければ売っていない。だから、とにかく私の目はランランと輝いてしまった。その数の豊富な事と、デザインの斬新さには圧倒。ハート型ひとつとってみても、何種類ものハートがその棚に並んでいる。私は、タイプライターを形どったもの、蛇腹式の大型カメラを形どったもの、そして最後に実にリアルな猫のスタンプを選んだ。その3つすべてに言えるとこだが、とにかく雰囲気が良い。スタンプのインクをセピアカラーにしたらさぞかしその雰囲気を最大限に表現できるのではないかというくらい。しかも、最後に選んだ猫のスタンプは、日本で私の帰りを待っている、大切な友達にそっくりだった。スタンプを見ながら、早く日本に帰って彼女に会いたいと思いつつも、ずっとイギリスにいたいという気持がぶつかり合って、なにやら複雑な心境。

 素敵な買い物を済ませて、また城壁の上を歩いていたが、今度はすぐに降り口がきてしまった。城壁は、すべてが輪になって繋がっているわけではなく、その歴史の流れの中で風化してしまったり、取り壊されてしまったりした場所もあるのか、たまたまそこに川が流れていて、城壁を建てる必要がなかったからなのか、途切れ途切れになっている。その都度登ったり降りたりしながら進んでいたのだ。再び地上に降りた私は、今まで通っていなかった道を何本か歩き回り、スタート地点にまた戻ってきた。城壁を頼りにちょうどぐるりと街を一回りしたことになる。

 こうして、私のヨーク観光は無事終了。とにかく歩いて歩いて、歩きつづけたヨークの旅だった。すべては見切れなかったが、街の雰囲気は十分に味わい、満足をして、ロンドンの寮へ帰ったのでした。そしてその夜。私の大切な友達は元気かと、猫のスタンプを握りしめながら、日本の我が家に電話をしたのでした。

 

23.感動の涙

 今日もまた、日帰り旅行の予定を立てている。ロンドンからほぼ垂直、南に約80Kばかり下ると、ブライトンという街に辿り着く。今日の目的地は、そのブライトンだ。

 ブライトンは、リゾート地として有名で、海岸沿いに様々な観光スポットがある場所らしい。私は、ガイドマップを読みながら、リバプールとは違う海の姿を見れることを期待していた。昨日の夜、いつものように日帰り用の荷造りを済ましていた私は、朝起きて紅茶を一杯と、フルーツ入りのシリアル(ミルクなし)をボリボリとほおばっただけで、颯爽と寮を出発した。

 ブライトンへはロンドンのキングスクロス駅から列車で約1時間という道のり。窓からの景色をぼーっと楽しんでいるうちに着いてしまった。ブライトンは、もともと漁や農業が中心のいわゆる小さな田舎町といった感じだったらしいが、次第に海水浴場といて観光客が集まるようになり、1787年にプリンス・オブ・ウエールズ(後のジョージ4世)が、離宮を建てて避暑地として住むようになった頃から別荘などが建つようになったらしい。で、今日はその離宮とやらに行ってみるつもりだ。それは、「ロイヤル・パビリオン」といって、観光スポットとして一般の人が入って当時の様子を垣間見ることが出来るのだ。

まず特徴的なのは、その建物の外観。英国風の建物ではなく、アラビア風といったら言いのだろうか、アラジンが魔法の絨毯に乗って飛んで来るのではないかと思うくらいのイメージに私は圧倒されてしまった。宮殿内に入ると、これまたビックリ。外観とは違う中国風のイメージが広がっている。当時はシノワズリー(中国風)のブームだったらしく、いたる所にそのデザインの傾向が伺える。一歩一歩宮殿の中を進んでいく。宴会場、大厨房、中央の広間、王の寝室・・・・・・。一つ一つの部屋を見るたび、その時代の華やかさを感じ取る事が出来る。

そして、私がもっとも心を奪われた部屋。とても不思議な体験をしたあの部屋に辿り着いた。それは、コンサートや舞踏会が行われたといわれている『音楽の間』。その部屋へ一歩踏み入れた時、なんとなく不思議な感覚が襲ってきた。

「ジョージ4世は、ここで開かれた様々な催し物に、感動のあまり涙を流したといわれています」

宮殿内を案内してくれている人の説明を聞いた瞬間だ。私は、気がついたら涙を流していた。涙が止まらなかった。まるで今ここでコンサートでも行われているかのように、ひどく何かに感動してしまったのだ。私はただ広い部屋の中央に立ち尽くし、頭の上に輝いているシャンデリアを見つづけるしかなかった。

その部屋を後に、ふっと我に返った。そして気づいた。その不思議な感覚の原因に。その部屋から離れるにつれ、次第にはっきりとした現実のものとなって確実に私の耳に響いていたことを気づかせた。それは、そこにあるはずもなかったオーケストラの音。弦楽器が奏でるシャープな音色。しなやかに鍵盤の上で指を動かしメロディーを生み出すピアノの音。そして、体に響く音を刻む打楽器のリズム。もちろん、BGMなんかではない。周りの人を見渡しても、そんな素振りを見せている人は誰一人としていなかったし、みんな部屋にある調度品などを眺めていただけなのだ。

聴こえるはずのない幻の音色を私は聴いてしまった。そして、かつてのプリンスが心奪われ涙したように、現代に生きる私にもその感動を知る事ができた。理由などわからない。ただ分かったことといえば、『どの時代に生きる人間でも、どんな身分の人間でも、感動の涙は同じものである』ということだ。

あまりにも不思議な経験をした私は、その後ブライトンのどこを観光したのかさっぱり覚えていない。記憶がないのか、本当にどこも観光しないまま帰ったのか。とにもかくにも一生忘れられない、そして誰もが経験できるわけではない不思議な体験をしたのだった。

 

24.温泉大好き

 今日は温泉へ行く日。といっても、温泉に浸かるというわけではないのが残念な所。今日の旅行先はバースだ。UNESCO世界文化遺産都市にも登録されている。

 バースは、ロンドンの西約170Kmにあるまちで、古代ローマ人が温泉を発見し、貴族の保養地として栄えた。文字通り、英語のお風呂(Bath)の語源となった所だ。街並みは、石造りの建物がとっても美しい。石畳の上を踏みしめながら私は、微かに街中に漂う温泉の香りを楽しんでいた。

 やはり一番初めは、「ローマン・バース博物館」へ足を運ぶ。ココは、ローマ時代の浴場を復元した博物館。今でも博物館内には温泉が湧き出ているという。(残念な事に入浴は出来ないが・・・・・・)

 そのほとんどが石造りで出来ている博物館の館内を見学しながら、日本の温泉とはまた違った温泉の姿が浮き彫りにされる。日本の温泉(お風呂)といったらまず、狭くて浴槽の中で動き回るような事は想像しにくいが、ここはまさにプール状態。今ではそんな感じの温泉も日本のリゾート地にはいくつかあるが、どうも日本ではしっくりしないような感じがするのだ。しかし、この石造りの建物の中央にデン!と位置する大きなプール、いやいや温泉浴場「グランド・バス」は、思わず泳ぎたくなってしまう広さ。建物の内部には蒸し風呂やトルコ風呂などの紹介もあったが、やはりまるで中庭のように構えるこのプールタイプの温泉にはさすがの私も圧倒された。とは言うものの、現在そこに入れるというわけではなく、ただ湧き出る温泉を張ってあると言った感じでお湯が緑っぽい?・・・・・・透き通っていないお湯を見てしまった私としては、すぐ側で温泉水が飲めます!という呼びかけに遠慮してしまったのは言うまでもない。

 次に足を運んだのは「バース寺院」。博物館のすぐ隣と言ってよい場所にある。ゴシック様式の寺院で、採光窓が多いことから「西の燈明」とも呼ばれているとガイドブックには書かれていた。ファン・グォルティングという扇形の天井が見どころらしい。そして、教会内へ足を踏み入れた私は、ガイドブック通りの素晴らしい天井に感動した。体に心に覆い被さるような、そして優しく包み込むようなそんな雰囲気がする。ステンドグラスもとても美しく、「いやぁーすごいなぁー」と思わず独り言。まさに見事なのである。ドキドキしながら協会ないを見学していると、お祈りを捧げる何人かの人たちが目に映った。「そうだ、ココは神聖なる場所なのよね。観光客であるだけの私が、ズカズカと歩き回るのはちょっとね」と思い、早々と協会を後にした。とりあえず、図々しくはあるが、「後残り少ないイギリスの旅が楽しいものになりますように」と言うお願いをして。

 そして最後に、イギリスの様々な町へ行ったら必ず買っている、その土地土地の絵葉書を手に入れようと、お土産屋さんへ。実は、博物館や美術館、歴史的建物を見て観光するのも好きだが、イロイロなものが雑多に置いてあるお土産屋さんを見てまわるのが私は大好きだ。それはなるべく雑多なお土産屋さんだ。キレイに陳列されすぎていると、一目瞭然でつまらないというのが本音。何だココに隠れているのは?というような、普通の人ならまず目に入らないようなものをゴソゴソとあさって、面白いものや格安のものを手に入れるのが楽しい。残念な事に、バースではそんなお店を探すほど時間がなかった。珍しく今回は、通っている語学学校が紹介しているバスツアーに参加しているのだ。何人かの語学学校の学生がバスに相乗りして観光をする。つまり集合時間とか、決められた観光スポットなどがあったわけだ。乗り過ごしたり、迷子になったりという心配がない変わりに、自由にフラフラできないという点が残念だが、たまには大勢で観光するのもいいかなと思ってツアーに参加をしたのだが、結局個人行動ばかりだった。つくづく自分の性格を思い知らされた。

 そしてこの後、またこの観光バスで、トーンヘンジ」へと向かう。イギリスでもっとも行きたいと思っていた神秘的なあの場所だ。私は、バースでの買い物を絵葉書一枚だけにとどめ、早々とバスにもどって行った。しかし・・・・・・。こんな所でも日本のおばちゃんパワーは炸裂。バスを20分も待たせて、お土産屋の袋を両手に抱えて、「ソーリー、ソーリー」と言いながらバスに乗り込んできた。さすがである。

 

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