続・ロンドン日記 2001

10年前の軌跡‐繋がっていた時間

  

昨日の興奮も覚めやらないうちに朝がやってきた。6時には起床。今日は再び10年前の軌跡を辿ることになる。私の行きたいところばっかりで妹の麻耶には悪いと思ったものの、彼女もロンドンの街を観光した事があまりないので、実際の所一石二鳥だった。

 今日もユースホステル内の食堂でイングリッシュブレックファーストを食べる。ココのユースホステルは他のところよりもチョットだけ高めなのだが、イングリッシュブレックファーストを食べられるという事で選んだ。確かにユースホステルの割には美味しい。私が好きなのは、ビーンズだ。半熟に焼いてある卵の黄身部分をぷちっとつぶして、ビーンズにちょっと絡ませる。トロケ出た黄身を味が濃い目のソーセージにつけて食べるのもまたうまい!このソーセージというのが実はクセモノ。日本で売っているようなソーセージとはまったく別物でとても個性的な味がするのだ。もしかするとマズイ???かもしれない。いや、おそらく確実にマズイ。中身は肉と言うよりネチャネチャした脂肪っぽい物体で、実は挽肉に小麦粉を混ぜたものらしい。こんがりと皮目が焼けていて(時には真っ黒に焦げている時も)一見ぷりっ!とした食感を味わえそうにも思うのだが、食べてみると・・・・・・。とにかく舌の肥えた日本人には特に嫌われているソーセージである。が、しかし私は好きだったりする。味オンチなのかな??でも一度食べたらやめられない。何となくまた一口、もう一口と、「うっマズーイ。でもウマーイ」と矛盾した事を言いながらぺロっと食べてしまうというわけだ。と、イングリッシュブレックファースト談議を始めたらきりがないのでここら辺でやめておこう。

 朝食を済ませた後、私達は直ぐに出発した。今日もイロイロな所へ行く予定があるからだ。一秒でも無駄にしたくない。先ずはポートベローロード・マーケットへと向かう。10年前、私がこよなく愛し、毎週土曜日は通ったマーケットだ。しかし今日は日曜日だから実はアンティークなどのマーケットはやっていない。それでも行ってみたかった。

 ポートベローロードがある地下鉄の駅は『ノッティング・ヒル・ゲイト』。ジュリアロバーツ出演の映画「ノッティング・ヒル・ゲイトの恋人」でも有名だ。ちなみに、ヒュー・グラント(めちゃくちゃカッコイイ)演じる相手役が務めていた店として撮影に使われた本屋がポートベローロードに実在するらしい。正確な番地まで調べているわけではないので、もしもそれと分ったらラッキーというぐらいにしておこうか。

 ホームから地上に上がって戸惑った。さすがに10年前とは様変わりしている。一気に方向感覚を失ってしまった。ココはどこだ!?というくらいに見覚えのない風景が私の前に広がっている。マーケットの入口へ続く道はどこだ?地下鉄からの出口を間違えた??いや、ロンドンの地下鉄出口って間違えるほど多くないはず。特に、ノッティング・ヒル・ゲイトなんて、小さな駅だから1つしかないんじゃなかったっけ?歩いていけばそのうち見覚えのある場所まで辿り着くかな。そんなことを考えながら、私は何となく足の向く方へと歩いて行った。

 しかし、歩いても歩いても見覚えのある道には辿り着かない。どうやら目的の道をはずれて住宅街の方へ入り込んでしまったらしい。そもそもノッティング・ヒル・ゲイト辺りは高級住宅街。いかにもお金持ちが住んでいそうな家が建ち並んでいる。ちょっとばかり憧れを抱きながらも私達はマーケットを探して歩きつづけた。

 10分は歩き回っただろうか、一つの路地を曲がると、急に見覚えのある風景が飛び込んで来た。かつて私がロンドンで初めてのシャッターをきった場所だった。

「あれ??ココだ!ココ!」

どうにかしてポートベローロード・マーケットの入口に到着した。この辺りは昔とまったく変わっていない。入口にはガイドブックには必ず写真が載っているアンティークの看板屋さんがある。扱っているものは他にもイロイロとあるのだが、このお店のメイン商品は材質が木で、カラフルな色使いの看板だ。中には歯医者さんの看板なんかもあって、歯の形が立体的に彫刻されていたりする。商品は大抵が一点ものなので気に入ったものがあったら早い者勝ちだ。価格も5千円から3万円くらいのものまで様々。見ていて飽きないお店の一つだ。

 さて、こうしてどうにか辿り着いたマーケットだが、やはり土曜日ではないのでアンティーク市はやっていなかった。道路の両側に屋台を置く場所の印(1m置き位に白線でスペースを囲んである)が永遠と連なっているだけ。ちょっと寂しげだが、こんな風景もなかなか面白い。私は10年前には目にしなかった光景を楽しみながら写真に撮った。

 しばらく歩いていくと、道の両側に屋台が見え始めた。やっていないのはアンティークの市だけで、野菜や果物などの食品類、そして衣料品などのお店は今日も並んでいた。その中で私の目に止まったのはお菓子屋さんの屋台。日本で言えば駄菓子屋さんといった感じのお菓子が、瓶に詰められてカラフルに並べられている。カラフルといっても、アメリカ的なカラフルさではなくて、どこかノスタルジックな感じのする淡い色合いだったりもする。そんな色合いに目を奪われ、隠し撮りをするようにデジタルカメラで撮影をした。ついでにお菓子をいくつか買って、ストリートを歩きながら口にほおばった。美味しかった。ウエハースのようなものにラムネの粉みたいなものが入っている。日本の駄菓子にも似たようなものがある。懐かしさを覚えながらも、麻耶に少しおすそ分け。彼女も『懐かしい感じぃ』といいながら食べていた。

 そろそろポートベローロードというなの道が終わる。自然と屋台の数も減ってくる。そして、辿り着くフィッシュ&チップスの店。大抵の土曜日にはポートベローロードに遊びに来ていたので、ランチはいつもココだった。そうそう、10年前の誕生日もここでランチを食べたっけ。今日のランチもココで頂くことにしよう。

 店内は狭く、カウンターがあるのみ。大抵私はそこでフィッシュにビネガーをたっぷりとかけ、プラスチックのフォークでつつきながら一本をたいらげていた。交互にチップスをつまみながら。今もそのカウンターは健在だ。そして、こんな事を思い出す。私がいつものようにカウンターで食べていると、日本人の観光客の女の子が二人やってきて、サイズをスモールにするか、ミディアムにするか、ラージにするか迷っていた。私は『ここのは大きいから、ラージなんかにしたら食べきれないよ!これでスモールだから』と自分のオーダーしたフィッシュ&チップスを見せる。S・M・Lのサイズといえばマクドナルドのあのサイズしか知らなかっただろう彼女たちは驚く。そして、二人でミディアムを一つオーダーしていた。いかにも常連客を気取って彼女たちにアドバイスをして得意になっていた自分が、今となっては子供だったなぁと苦笑してしまう。

 そして、あの時の彼女たちのように、今度は私たち姉妹が、ミディアムサイズのフィッシュ&チップス二人で分けて食べ合った。でも、昔よりも量が減ったかなぁ。以前はもっとボリュームがあったような気がしたが・・・・・・。『子供の時大きく見えていたものが、大人になって小さく見える』というあの作用だろうか。まさかそんなはずないだろう食べ物の量に限って。馬鹿げた想像をしながら、私は、ポートベローロードを後にした。

 

 ポートベローロードから私達は次の目的地ロンドンのリトルベニス。そこへは今回始めて訪れるので10年前の軌跡巡りからちょっと外れて純粋な観光を楽しむ予定。しかし、現地に着いてちょっと落胆。ガイドブックにはなかなかステキな雰囲気で紹介されていた、ロンドンのリトルベニスだが、どこがベニス・・・・・・??といった感じで、ちょっと拍子抜け。だって、ただの川にちょっとカラフルな船が浮いていて、特に活気があるわけでもなく、ココだけ?といった表現がピッタリくるような寂しげな雰囲気で。これだったら、コッツウォルズで行った「ボートン・オンザ・ウォーター」の村の方がよっぽど活気があった気がする。むろんそこも、リトルベニスと言われているらしいが、ぜんぜんイメージが違うものだったのだが。どちらにしても、写真を撮るぞぉーと意気込んでいった甲斐もなく、2・3枚の写真を撮っただけでそこの観光は終わってしまった。

 もっとも、私は新婚旅行の時、本物のベニスへ行ったこともあったわけで、本物に勝るものはないというのが正直な所だろうか・・・・・・。 

 

 さて、次に向かったのは大英博物館。好きで何度も通ったNO.44の部屋。アンティーク時計が所狭しと並び、時を刻んでいる部屋だ。その部屋への道筋は自分の庭のように分っていた。何度も通ったから・・・・・・。部屋はもちろん健在。時計の音も健在だ。入口に近づくにつれ"カチカチ"という音が聴こえてくる。少しノスタルジックな気分に浸ってしまう瞬間だ。

それでも、さっき食べたフッシュ&チップスのように、私の中でNO.44の存在はちょっぴり小さいものに感じていた。あの頃感じた恍惚とした時間は感じられない。時の流れが少し急ぎ足で駆けていくように感じてしまっていた。これは、私が大人になった証拠だろうか。それは、良い事なのだろうか。それとも、とても寂しい事なのだろうか。答えを見つけ出せないまま、私はカメラで何台かのアンティーク時計を写し撮った。かつては、今自分がココにいるということを感じ取るためにシャッターを押していた。今はどうだろう。もちろん、自分の存在する時間を残すためにシャッターを切るという気持ちはいつでも持っている。しかしそれだけではない事をこの時ようやく気付いた気がする。"カチカチ"というリズムある時の流れ。あの時から時は静かであるけれども繋がっているんだということを報せてくれる。今という時間だけではなく、これからも続くという時間がいつも私にはあるという事を。

 私達はミュージアムを後にする。以前ミュージアム入口には必ず焼栗の屋台が出ていて、ロンドンに焼栗なんてあるんだと思ったことがある。カメラやフィルムをいじる手が、汚れてしまうので、買わずに帰ってしまっていたことを、大げさだかこの10年後悔していた。だから今回は!と楽しみにしていたのだが、甘栗の屋台は出ていなかった。残念。代わりにアイスキャンディーとも、シャーベットとも、イタリアンジェラートともいえない不思議な冷たい甘いお菓子を売っていた。きっと季節的にアイスなのかもしれない。確かに、炎天下の中、焼栗はしんどいだろうから。

私達は二人で一つのアイスをかぶりつきながら、溶けないようにと木陰へと急ぐ。ガイドブックを開いて、これからどこへ行こうかと話し合った。周りから見ればいかにも観光客といった感じだなぁと思いつつ、そんなことも新鮮に感じていた。

 

 そして、明日はスコットランド、エジンバラへ。私の好きなもう一つの街へ行く。自分のためでもあるが、妹の麻耶にも是非あの街を見せてあげたいという気持ちもあるからだ。きっと、エジンバラは、絵を描く彼女に何かしらのメッセージを与えてくれるはずだ。かつて写真に情熱を持っていた頃の私がそうであったように。

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スコットランドの空気

 朝の4時に合わせていた目覚ましがジリジリとなった。今日はスコットランドへ行く予定なのだが、朝7時前の飛行機で行くという強行的なスケジュールを組んだ。短い滞在期間の中で、少しでも多くの時間観光に費やしたいという気持ちが私達をそうさせたのだ。

 眠い目を擦りながら二人は眠気覚ましにシャワーを浴び、半分だけ起きた状態で昨日まとめておいた荷物を手にユースホステルをチェックアウトした。ロンドンでの最後の朝食、イングリッシュブレックファーストをあきらめて。

 外はまだ暗い。まだ地下鉄が走っていないので、飛行場まではタクシーを利用するしかない。ユースホステルが大きな駅の近くにあることもあって、日本のようにタクシー乗り場にたくさん停まっていると思っていたが、これは計算違い。一台もいない。昨日から予約の電話を入れておけば良かったが、今となっては後の祭りだ。麻耶の持っていた携帯電話で、タクシー会社に電話する。今からだと30分後になるらしい。際どい選択だ。このまま道端で待っていたとしても30分ぐらいあればタクシーの1台は通るはず。私達は、このまま駅の近くを通るタクシーを待つ事にした。今思えば考えなしな事をしているとも思うが、運良く15分もたたないうちにロンドンタクシーを一台つかまえる事が出来た。

 タクシーの中で二人は夢うつつになりながらも、何とか空港まで辿り着いた。この時が今回の旅行で経験した1度だけのロンドンタクシーだったが、やはり、乗り心地は良かった。広々とした車内。荷物を入れても、まだ足を伸ばせる。そして、ロンドンタクシー運転手はエリートだという安心感がやはり一番だろう。

 さて、まだ朝の6時過ぎだというのに空港は人でいっぱいだ。私たちが乗る予定の航空会社の窓口にも列ができている。どうやら搭乗の手続きが遅れているようだ。このまま出発するのが遅れたりしたら、せっかく早起きして飛行機にした意味がない。まあ実際のところ飛行機と列車の差はたった3時間位なのだが・・・・・・。それでもその3時間で何が出来る!?と考えれば、早起きは三文の得なのである。

 結局大した遅れもなく、私達はスコットランドのエジンバラへ到着した。まだ時計は午前9時。午前中を有効に活用できる時間帯だ。私達は到着後早々に今日泊まる予定のユースホステルへ向かった。とりあえず重い荷物を置くために。

 ユースホステルは、街中からちょっと外れた場所にあった。しかし、このユースホステル、実は学生寮なのだ。夏の間、学生達はそれぞれの家に帰省するのでほとんどの部屋が空いている。それをユースホステルとして利用するというわけだ。だから、作りはまさに寮で、特別フロントがあるわけでも、食堂があるわけでもない。朝食も付いていないのでキッチンで自炊しなければならない。贅沢は言えないがものの、朝食なしの素泊まりというのはちょっと残念。

 荷物を置いてさぁエジンバラ観光へGO!今日もきっとクタクタになるまで歩くだろうという予想の元、私達はユースホステルから街中までをバスを使って移動した。先ずは、観光らしい観光をしようと試みる。ダブルデッカーに乗って、市内観光だ!私たちは、いかにも観光用のバス!といったペインティングが施されているバスに乗り込んだ。この市内観光バスのシステムは、観光客に嬉しいシステムで、1日何度でも乗ることができるというもの。バス乗り場が主要観光スポットにいくつか点在していて、そこを詳しく見たい場合はそこでおり、その後に回ってくるバスに乗って次のスポットへ移動できるというものだ。大体15分間隔程で次のバスが来るので、ちゃんと時間を計算しながら周れば、街の主要観光スポットをすべて楽しめるのだ。

 私たちは、2階建てのバスの2階に乗り込み、しばらくは観光を楽しんでいたものの、午後になって急に雨が降ってきた。朝から雲行きは怪しかったのだが、やはり1日持ちこたえることはなく、雨に打たれながら屋根のないバスの2階で観光するのもなかなか辛いもので、床に溜まった雨水は、バスが止まるたびに洪水のように私たちに襲い掛かる。ザバーンザバーンと音を立てて、水飛沫が上がる。その度に足を上げて雨水を避けるという始末。夏だというのに次第に体も冷えてきたので、1階へと避難した。

 バスの1階はさすがに暖かく、ほっと一息。しかし、そのほっと一息がいつの間にか眠りの世界へと変わってしまった。朝の4時に起きるという強行スケジュールだったため、私も麻耶も暖かくて適度に揺れるバスの中でコクリコクリと眠り始めてしまったのだ。こんな観光客いまだかつていただろうか・・・・・・。

 30分ほどの充分な睡眠をとった私たちは、観光地点でバスを一度も降りることなくスタート地点へと戻ってきてしまった。エジンバラ市内観光は睡眠でそのほとんどを費やし、バスを降りることとなった。実際の所、チケットは一日中使えるので、もう一周回ることもできたのだが、結局また眠ってしまうような気がして、それならば自分たちの足で歩いた方が良いということになったのだ。一人7ポンド近くも払ったので少しもったいない気もしたが、それも仕方ない。

 私たちが歩いて観光を始めると、雨は少し小ぶりなってきた。バスの中から見た風景を思い出しながら、なにやら賑やかな通りに出た。どうやらフェスティバルの最中だったようだ。メインストリートのロイヤルマイルに大道芸人や屋台が集まって、賑やかな雰囲気だ。人通りも多い。スコットランド・エジンバラといえば、私の中ではとても静かで重厚な空気が流れているイメージだったが、今日のこの通りに関してだけ言えばとても明るくまるで遊園地のような雰囲気。年甲斐もなく二人とも遊園地的な雰囲気は好きなので、眠気も去ってロイヤルマイルを行ったり来たり。人の流れをかき分けながら、屋台のジュエリーショップや雑貨屋などを見て回った。

 お祭り気分の楽しげな雰囲気を満喫した私たちは、今日の最後に、いかにも観光客的なスポットへ行く事にした。それは「エジンバラダンジョン」・・・・・・。ロンドンにも「ロンドンダンジョン」というものがあるがおそらくそれの、姉妹?アトラクションで、エジンバラで起きた猟奇的な殺人事件や自然災害、歴史的に言い伝えられている不気味な話などをテーマに、その一つ一つをお芝居や展示物などで説明しながら進んで行くというもの。「ダンジョン」の意味は牢獄。だから、アトラクション!という楽しげな言い方が合っているとは言えない。むしろ、気味が悪い見世物小屋といった感覚の方が正しいかもしれない。と思いつつも、怖いもの見たさの好奇心で、二人は牢獄へと足を踏み入れたのだった。

 アトラクションへ進む前に、入口で写真撮影が行われる。それも、一人がギロチン台に首を置き、一人が斧を持ってその首を切り落とすというシチュエーションだ。撮影した写真は出口で売られるらしい。ちょっとこっぱずかしいが、私も麻耶もなりきって撮影。ちなみに私が斧を持って首を切り落とすという役。こうゆう時にも姉妹の性格が出るのだろうか、順番になると特に話し合ったわけでもないのに妹は首切り台へ、私は斧に手を。その時には何の疑問も持たなかったが、時間が経って考えてみると面白いものだ。

 暗い部屋を進んでいくと、先ずは拷問部屋に突き当たる。牢獄に閉じ込められながら、囚人たちが拷問されている風景を蝋人形で紹介している。その拷問というのが、これまたキチガイじみている。口を金具で開けっぱなしにして、水をひたすら飲ませて内臓破裂させるとか、鼠を牢屋に一緒に入れて鼠の餌としてかじらせるとか、生きたままお腹をノコギリで切っているとか・・・・・・。そんな蝋人形の部屋には効果音はもちろんの事、効果臭まである。これが本当に臭い。人間の腐っていく匂いを表現しているのか、微妙にすっぱさのある嫌な匂いだ。それは吐き気をもよおしてしまうほど。この匂いだけはちょっとガマンできなかったが、怖いもの見たさでついつい精巧に作られた蝋人形をまじまじと見てしまった。この部屋の終わりに差しかかった頃、係りの人が私たち観光客に向かってこう切り出す。「もしもこの段階で恐ろしさのあまりガマンができないという方は、こちらの扉からお帰りください。ここからは今以上に恐ろしいものが待受けています!」と。だがここで出口へ向かう人はよほどの事がない限りいないだろう。結構高い料金を払っているわけだし。私たちももちろん、次の部屋、また次の部屋へとどんどん進んでいった。そこでは、 二重人格の代名詞でもあるジキルとハイドのモデルになった「牧師・ディーコン・ブローディ」の事件を始め、各部屋ごとに昔起こった不気味な事件・ストーリーをお芝居化して、観光客に見せるという仕組み。ディスニーランドで言えば、シンデレラ城といったところか。もちろん、内容はまったく別のものだが。

 私たちは「エジンバラダンジョン」を充分に堪能し、最後にお土産コーナーへ。さすがにココで売られているものは一味もニ味も違って不気味なものが多い。切り落とされた手首や足首のおもちゃ(ゴム製)だったり、血がたっぷり付いたような首切り斧だったり。いったい誰が買ってゆくのだろうと思いつつも、ゴム製のタランチュラが山盛りになって置かれているのを突っついたりしていた。

 「エジンバラダンジョン」から外に出ると、外は薄暗くなっていた。昼間お祭り気分で明るかった街の空気も、どんよりとした雰囲気感じてしまう。不気味なものばかりを今さっきまで見ていたせいもあるだろうが、通りから見上げるエジンバラ城の重々しさもまた、これこそ私がかつて感じていたスコットランド・エジンバラの空気だということが思い出されてきた。さて、明日もエジンバラの街をじっくりと堪能する事にしよう。

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10年前の軌跡‐変わらずにそこにあるもの。

  

 今日は10時まで寝てしまった。ちょっと遅れをとってしまった感じ。とは言うものの、 昨日の早起きが相当効いていたらしく、私も麻耶もお疲れ気味。昨日の夕方には目の下にクマできてしまっていたくらいだから、睡眠を取ることも旅行では大切な要素の一つだといえる。しかし今日こんなにも寝坊してしまったのは、ただ単に疲れていただけではない。スコットランドで泊っているユースホステルには朝食が付いてないからだ。きっと、朝食付であれば貧乏性の私たちは、疲れた体に鞭打って朝食の時間までには起きただろうから。共同のキッチンで、昨日の夕方に買っておいた「バーガーキング」のハンバーガーを電子レンジで温めなおして、朝食を済ませた。なんともわびしい朝食だったが、ケチケチ旅行大好きな私としては、これもまた良い思い出となる。

 そういえば、妹と二人きりで旅行をするのはこれが2度目である事を思い出す。比較的仲が良い姉妹だと思うのだが、長い間姉妹をやってきて一緒に旅行するというのはたった2度のこと。1度目は数年前にイルカと泳ぎに御蔵島まで行ったっけ。しかもこの時は、旅行というよりもアウトドア&サバイバル!という感じで「美人?姉妹 イルカの島へ二人旅」というような、サスペンスドラマのタイトルになりそうな旅情チックなものではなかったし。もちろん今回も「美人?姉妹 イギリス周遊二人旅」という雰囲気ではないだろう、誰が見ても絶対に。

 そんなことをイロイロ考えつつ、のんびりと準備をしていたら、あっという間に昼の12時を過ぎてしまった。もうすぐ1時になろうしている。今夜もう一泊するとはいえ、これはさすがに大幅な遅れをとっていると感じた私たちは、急いでユースホステルを出発した。

 先ず私たちが向かったのは、エジンバラ城。この古城に訪れるのは2度目だ。一度観光で来たことがあるのに何故またと思う人もいるかもしれない。ロンドンでの10年前の軌跡を辿る旅でもそう思う人もいたかもしれない。でもこの国は、何度同じ場所を訪れても決して飽きる事はない。まして同じだなんて思わせないほどの魅力があるのだ。いつだって、懐かしさと新しさで私の心を迎え入れてくれる。そこがたまらなく好きなのだ。そして、もちろん妹が、初めて訪れるということもあって、エジンバラの歴史的空気を味あわせてあげたいという思いもあった。

 「この国」という表現を今だからこそしているが、以前は、ここスコットランドとロンドンのあるイングランドは別々の国だった。この二つの国の戦いが激しいものだったと語るには、エジンバラ城がもっとも適しているだろう。絶壁の岩山に佇む、色褪せた古城。スコットランド女王、メアリー・スチュアートがエリザベス女王との王位争いに負け首切りの刑にあったという歴史的な悲劇は、今もスコットランド人たちの心の奥底に染み付いているような気がしてならない。同じように島国である日本も、かつてはいくつもの国から成り立っていたのだから似たような思いがありそうな気もするが、イマイチピンとこない。NHKのドラマなんかを見たって、なるほどねぇぇ。という気持ちになるだけで、今自分たちが生活している現代社会では、まったくの物語の世界でしかないように感じてしまう。私だけでなく、大抵の日本人はそうなのではないだろうか。もちろん、地方によっては根強く言い伝えられているような実話もあるだろうけど。

 ちょっと難しいことを考えながらも、私たちはエジンバラ城に向かう道すがら、フェスティバルが行われていた昨日の道でちょろちょろと寄り道する。結局エジンバラ城に着いたのは午後の2時近くになっていた。あんなに遅い朝食をとったくせに、小腹が空いた二人。入場券を買って中に入ってしまえばこっちのもんさ!と、城の中を見物する前に城内にあるカフェテラスでちょっとお茶を。

 ちょっとのはずのお茶を、ゆっくり終えて、さぁてエジンバラ城を見学するぞ!日本語で聞けるガイドCDも借りたし!と思ったが、あっという間にもうすぐ3時。ということは、エジンバラ城閉館まで残す所あと一時間。午後4時には閉まってしまう。しかし、カフェテラスでついついのんびりしてしまったものの、1時間もあればざっと見ることは出来るだろうと早速観光開始。

 が!!その考えは大間違いだった。ここは日本ではないのだ。『入ってしまえばこっちのもの』という定義が成り立たない外国だったのだ。4時に閉館ということは、日本のように4時までは見られるというアバウトさはなく、4時には人っ子一人いなくなるというのがこちらの閉館の意味なのだ。私たちは急き立てられるように城内を見物というか、歩きまわった。行く所行く所、係員の人がいて両手を広げ『ここはもうクローズしていまーす』というあんばい。城内にあるいくつかの建物の中はほとんど見られず、ただ外観を見ただけといった感じで終わってしまった。一度見たことのある私は良しとしても、麻耶は相当悔しい思いをしていたようだ。『もぉぉぉー。私ってバカバカバカ!』としきりに言っていた。

 何ともあっけないエジンバラ城観光を終え、次に向かったのはオモチャ博物館。古くからあるイギリスのオモチャを中心に、様々な国のオモチャ(特に人形)を展示している博物館だ。コインを入れると、動き出す大きなオルゴールタイプのオモチャもある。中でも面白かったのが、ピアノとドラムとその他の打楽器などが一緒になっているものだ。曲名までは覚えていないが、コインを入れるとリズムの良い音楽を奏でてくれる。オルゴールというよりも、生演奏といったところか。

 博物館といっても小さなビルの3フロアを使って所狭しとオモチャが展示されているという具合だから、あっという間に観終わってしまった。とはいうものの実は次に観光する予定の場所へ早く行きたいという気持ちがあったのも事実だ。

 次に向かったのは、10年前も訪れた「カメラ・オブ・スキュラ」。改めて建物の前になって驚いた。何だか立派なビルになっている。それも、超近代的、いや未来的な・・・・・・。昔はお土産屋さんの一角にある小さな階段をギシギシと上がっていくだけの素朴な作りだったのに、まるでディズニーランドの未来系アトラクションにでも来たみたいな、そんな感じだ。私は期待した。『もしかすると、超ハイテクマシンか何かを採用して、カメラ・オブ・スキュラを体験できるかもしれない!』と。

 が、しかし、変わっていたのは外見だけだった。入口はいかにも未来的に作ってあるものの、階段を昇り始めると何やら見覚えのある風景。狭くて暗くてギシギシ音がして。この音、この階段、この壁、あの頃と同じだ。そして頂上には、以前と変わらぬカメラ・オブ・スキュラの入口があった。次の見学時間まであと5分程度。私たちは展望台としても活用されているその建物の表に出た。

 昨日の天気の続きでも朝はどんよりしていた空も、カメラ・オブ・スキュラ日和といった感じに陽も差している。まだどうせ雲が出てくるのだろうなぁという気持ちもあったが、今こうして太陽の陽射しを浴びていると、不思議な気持ちになってくる。世の中には変わっていくものと、変わらずに昔のままの姿をとどめているものがある。見た目は何も変わらないように見えるこのイギリスの空も、実はあの頃とは変わっているのかもしれないそして、この建物が未来的になったように見えたけれど、本当の所は何も変わらず昔のままの姿で私を迎え入れてくれているのかも。そんな風に考えた。私自身はどうだろう。あの頃と変わってしまったのだろうか、もしくは、あの頃よりも成長できているのだろうか。それとも、昔と何も変わらない私なのだろうか。

 そうこうしているうちに時間がやってきた。次の客人を迎えるために開けられた扉をくぐると、そこには懐かしい風景があった。10年も経っているというのに、その部屋の中は何一つ変わっていない。実際、「カメラの原理」となるものであるから、根本的には変わりようもないのだが、ハイテク技術を取り入れてとか、テレビモニターなどが加えられてとか、そんなことはまったくなく、あの日のままの部屋がそこにあった。人が20人も入ればいっぱいになってしまう丸い部屋。その中央にはレンズに映し出されたものを反射せる大きな皿のようなものが置かれている。

 入口であんなにも未来的なイメージをアピールしていたとは思えないほど、質素で素朴で、古いものを大切にするお国柄の雰囲気を持っていた。

 説明もあの時と変わらなかった。一字一句とまではいかないまでも、説明の方法、手に持った紙を利用して、そこに映し出された外の映像を変形させて見せたり、人間が紙の上に乗っているような表現をしたりしている。10年間も同じことがこの小さな部屋でくり返されていたのかと思うと、タイムスリップしたような不思議な気持ちになる。そして、私たち観光客にとってはこの一日は特別の一日であるのに、こうして一生懸命説明をしている人にとっては、日常の生活なのだということが、少しだけせつなに伝わってきたのだった。



丘の上の王子様

  

 「カメラ・オブ・スキュラ」を後にして、私たち二人は「タータンチェック博物館」なる場所へ。これがまた、スコットランドといえばタータンチェックという雰囲気をフンダンに感じさせてくれる場所だった。ちょうどお祭りの最中だったこともあって、タータンチェックのスコットランド衣裳に身を包み、バグパイプを吹いているお兄さんも街中にいたりするから、思わず『丘の上の王子様!!』(キャンディ・キャンディ:参照)と叫びたくなってしまうのだ。

 さて、博物館へ入ったのはいいが、どう見てもお土産屋さん?という雰囲気を漂わせている館内。『博物館とは名ばかり!?騙された?』と思ったものの、どうやらその博物館は不思議な作りをしていて、お土産屋さんを中心にして、その周りを囲むように通路状になった博物館があるのだ。博物館は壁(板)で仕切られていて中を見ることは出来ない。しかし、所々表からも覗ける部分も残しているから、隠してあるものを見たくなる人間の心理を上手く利用している感じ。もちろん、博物館の中へは料金を払わないと入れないのだが、これが思ったよりも高い。一人£4.50もする。ケチケチ旅行をしている私たちにとっては、結構な額なのだ。しかも£4.50もするような作りとは言えない。入り口といえば頼りげのない扉を布一枚(もちろんタータンチェック)で隠されているというちょっとお粗末なもの。私たちはちょっと悩んだ。実際博物館の中に入ってみて、「騙された!」ということになるかもしれないと思ったからだ。次の入場制限時間まではあと10分ある。その間、中心にあるお店をフラフラ物色し、ターターンチェックの可愛らしさを改めて確認。もう一度チケット売場へ戻ってきた。可愛らしく飾られたお土産品のタータンチェックを見て、さすがに私たちもどうやって作られているんだろうと興味が出てきた。まさに『騙されたと思って』という言葉通りに£4.50のチケットを2枚購入。今日の夕食も質素にしなくちゃだめだなぁと思いつつも、入口のタータンチェックの布をくぐり、博物館の中へ。

 おやおや、これはなかなか。思っていたよりも広いその博物館内に、私たちの期待心が膨らんだ。そこにはUK特有の?蝋人形で、羊毛を刈り取っているシーンの再現から始まり、糸として精製していくまでの工程を展示していた。それとは別に座ってビデオテープも観られるようなスペースもあったりして、人形だけでなく実写でその様子を説明していた。先ず最初の扉は糸になるまでの工程を紹介し、次の扉、次のスペースへと順路に沿って製品へと出来上がっていく過程を見目事が出来るという仕組みだ。

 次の扉の向うへと進んでいくと、案内人のような人が待っていた。様々な工程や機械のことなどを丁寧に説明してくれる。丁寧という言葉よりも熱心にといったほうがいいかもしれない。おそらく、この案内人の人は職人さんなのだと私たちは感じた。『自分たちが作りだしている製品について、少しでも多くのことを知ってもらいたい』という熱い気持ちが伝わってくる。スコットランド訛りの英語を何とか聞き取ろうと、真剣になって私たちも聞いてしまう。

 ひとつひとつの工程を熱心に説明してくれてはいるものの、スコットランド訛りと、さらに日常会話では使わないような用語が飛び交って、しかも、ミュージアム全体が機織機の音でガシャガシャとうるさいものだから、言葉も途切れ途切れにしか聞き取れず、だんだんと何を言っているのか分からなくなってきた。とりあえず、目の前にある機械や糸などが様々な動きをするのを見ながら、分かった振りして「ふむふむ」とうなずいているのだった。それでも私たちには楽しい時間だった。最後には、昔ながらの手織の体験もさせてもらった。いかにも観光者用としてセッティングしてあるものではあるものの、他の見学者も我先にと機織機の前に座って、ギィーカラカラガッチャン、ガシャガシャと音をさせながら、ほんの1・2mmづづ織っていた。もちろん私達もそれぞれの姿をカメラにおさめながら。

 一通り、製作工程を見学し終え、私達は最後の部屋へと移動した。そこは、小さなホールのようになっていて、私達以外の見学客は誰もいなかった。ガランとしたそのホールには、無造作におかれた布が一枚あるだけ。もちろんタータンチェックの羊毛の布。それは、特別に断裁されているわけでもなく、長方形に近い形だった。『何コレ??毛布?』なんて二人で言い合っていたが、突き当たりの壁に何やらこの布についての説明が図解付きでかかれていた。どうやらこの布は身に付けるものらしい。その身に付け方を図解(イラスト)で紹介しているのだ。コレは面白そうと麻耶は、その布を広げ解説書きの通りに身にまとってみる。まずは、ベルトを床に置き、その上に布を広げて置く。次に中心にいくつかの縦ひだを作る。ひだは、体の幅の約2倍くらいだろうか。そうしてあらかじめ布の中央に通してあるに取りつけてある紐を腰へ巻き、体に布を括りつける。次に腰からしたの部分を、いわゆる巻きスカートのように巻いて、一番始めに置いたベルトを腰で締めるのだ。そうして立ち上がるとまさにスカートを履いているような状態になる。しかも、とっても重たそうだ。この後は、スカート状態の前裾と後ろ裾を肩まであげてピンなどで留めて出来あがりというわけだ。この裾の留め方を変える事で、様々なスタイルが誕生する。なかなか面白い。

 麻耶の着付け?も無事終わり、思わず記念写真。これでバグパイプなんて持っていたらまさに「丘の上の王子様」だ。麻耶は、すっかりこの「丘の上の王子様」スタイルを気に入ったのか、何だかノスタルジックな雰囲気に浸りながら、「お姉ちゃん。。。日本に帰ったら、古本屋でキャンディ・キャンディを買って、ぜひ送ってくれ……。」と、かつて子供の頃に夢中になったマンガの世界に思いを馳せながら遠い目をしているのであった。

 この一言のお影で、日本に帰ってからの私が、何軒もの古本屋を探し回ったのは言うまでもない。

 さて、明日はスコットランド観光の最終日。

 

続く・・・・・・。

 

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