第5話「

byもも

初恋の唄

シーリアは水辺に佇みながら唄を口ずさんでいる。その声は柔らかな風と共に、草原の中を駆け巡る。

♪・・・・・・You don't hove to prove yourself to me, your future, or to anyone.・・・・・・♪

(私や君の未来そして他の誰に対しても、君の能力が本当はどれだけのものかのかを語る必要はないのだよ。)

遠い昔、誰かが自分の耳元で優しく、そして力強く歌ってくれた唄。
しかし、シーリアにはそれが誰だかは分からない。
彼女の回りの大人すべての人に聞いても、歌う事などもちろん、耳にしたこともないという。
それどころか彼女がその唄の話を持ち出すたび、何故か人々は悲しみと怒りをあらわにする。
シーリアにとってはとても懐かしく、愛しく、そして切ない唄だ。

風が止み、彼女の歌声も止んだ。ただ水面だけがさっきまであった風の余韻に揺れている。
そして、歌いなれたメロディーがシーリアの耳をとらえた。

♪・・・・・・You don't hove to prove yourself to me, your future, or to anyone. ・・・・・・♪

誰も知るはずのないこの唄を歌う者がいる。シーリアは驚きを隠せず思わず叫ぶ。

「誰です!」

♪・・・・・・If you have done your best, that's all that matters.・・・・・・♪

(大切なのは、どれだけ努力したかと言う事。問題はそこだよ)

「あなたは何者です」

敵なのか味方なのか彼女には分からなかった。誰も知るはずのないこの歌の続きを、彼は歌う。
その澄みきった歌声と優しい瞳が彼女の心の中に入り込んでくる。

「その唄をどうしてご存知なのです?」

シーリアは尋ねた。

「当然、知っていますとも。私が昔ある方のためだけに創ったものだから」

「この唄を?あなたが!?それは本当なのですか?」

「まあ、一応。まだ駆け出しの頃に創った唄ですから、決して良い出来とは言えませんが」

「あなたはもしかすると、さすらいの吟遊詩人と呼ばれているカシュウ・・・・・・ですか?」

「まあ、そんな名前だったようです」

「そうですか、あなたが・・・・・・。
噂は聞いていますよ。いつもアクア・シールの5人を助けていただいているとか」

カシュウは照れながら言う。

「いや、たまたま私が顔を出すところに彼らがいるだけでね。」

そんなカシュウにシーリアは微笑を隠せない。しかしすぐにその笑顔は止んだ。

「カシュウ、この唄を創ったある方とはいったい誰なのです?」

シーリアの真剣な表情を前に、カシュウもさすがにたじろいだ。

「いや、こればかりは私の口からは言えないのですよ」

「何故、教えていただけないのですか?」

「それは・・・・・・。今はまだその時期ではないと。
それに私がお教えするまでもなく、きっと彼はあなたの前に姿を現しますよ。
いや、もう既に現しているかもしれない。刻々とその時は近づいているのです。それでは、私はこれで」

そう言ってカシュウは半透明になりながらその場から消え去った。

「もうすぐわたしの前に姿を現す?この唄を私に歌って聴かせてくれた人が・・・・・・。」

シーリアは初恋の痛みにも似た、ほのかな胸の痛みを感じていた。

 

古文書からの声

夏旺は、父親が部屋を出で行くとすぐさま古文書に目を戻した。
読み進めていくうちに、エンザークとシーリア、そして5人の名前の他に、
気になる言葉がいくつか目に飛び込んできた。
シーリアの名と対等に並ぶ『王子・クロース』『勇者の唄』『迷宮の愛情』『破門』そして『復讐』。
これらの言葉は何を意味するのだろうか?この言葉から導かれたひとつの想像が、
夏旺の気持をとてつもなく深い闇に閉じ込めた。

「エンザークには王子が存在したのか?シーリアではなく別の後継者がいたというのか?
ある出来事をきっかけに王子はエンザークから追い出された。そして復讐?」

読み出せた言葉を素直につなげていくとそう読み取れる。
しかし、『勇者の唄』『迷宮の愛情』と言う言葉の意味が彼にはまったく分からなかった。
王子は戦いに出たのだろうか?『勇者の唄』から想像してみる。
そこで例えば敵の王女と恋に落ちて?それが『迷宮の愛情』?
実際、自分自身の言葉で訳しているわけだから、果たしてどこまでが正解なのかすら分からないのだ。
さすがの夏旺も考古学的に解読は出来ても、
この古文書が訴えようとしている本物の声を聞くことは出来ないでいた。
こんなときは誰に相談するべきか・・・・・・。
アクア・シールのメンバーの中では、どうもピンと来る人物が浮かばない。
考えに考えたあげく、ある女性に会いに行く事にした。

 

言葉の選択

エスタシオン航空宇宙局医務セクションに在職中の真澄に夏旺は会いに来ていた。
ここはいつも賑やかだ。病院と言っても彼女が担当しているのは、
お年寄りや子供達を対象とした健康診断やカウンセリング。
具合が悪くなくても、彼女の穏やかな微笑みを見たいと、通ってくる人々が多い。

「プリマベーラのキース爺さん、今日は来ないのぉ」

「そうさねー。インベルノのリリカル婆さんも今日は来てないようだが」

「二人とも、どこか体壊したんじゃないかね」

そんな古いコントのセリフのような会話が、待合室を明るくしている。
夏旺も実は、そんな彼女の大ファンだ。そう彼がまだ小学生の頃、
学校に健康診断の往診に来てくれた時から・・・・・・。

「次の方どうぞ」

待合室の壁から浮き出たカメラのモニターに、真澄の笑顔が写った。夏旺の番だ。
診察室のドアのアイカメラを除く。
すると、それは夏旺の「網膜・虹彩」を感知し夏旺本人である事を確認する。
そしてカルテが真澄に届けられると共に、扉がフッと一瞬だけ消え、彼を診察室へと招き入れた。

「こんにちは。夏旺君。今日はどうしたの?」

「実は相談したい事があって」

真澄は夏旺の真剣な顔つきを見て事の重大さを理解したように看護婦に向かって言った。

「席を外してくれる?」

二人きりになったことを確認して、夏旺は話し始めた。

「実は、こんな言葉をある古文書から見つけたんだ」

彼の手には気になる言葉のいくつかをインプットしたメモボードを真澄に渡した。
シーリアの名とクロースの名は伏せたままにして。

「『王女』『王子』『勇者の唄』『迷宮の愛情』『破門』『復讐』」

真澄は、ひとつひとつの言葉をゆっくりと声を出して読んだ。

「夏旺君はこの言葉の意味を知りたいのね」

「そうなんだ。でも、どうもよくわからなくて。特に迷宮の愛ってのが。」

「そう・・・・・・。」

「すいません。こんな身分違いのお願いをしてしまって。」

「いいのよ」

そういって微笑む真澄は本当に美しかった。見た目は夏旺達5人と対して変わらないように見えるのだが、
この包容力のある笑顔から想像するに、10歳は年上のような気がする。

「そうね・・・・・・」

夏旺がボーっと真澄の顔を見ていると、彼女が話し始めた。

「『王女』『王子』についてはいいわよね。ある国に兄妹もしくは姉弟が存在していた。
次の『勇者の唄』っていうのは、きっと王子に対して贈られた歌ではないかしら?
いつかはこの国の後継者として立派に育っていってほしいという願いを込めて。
そして問題なのは、『迷宮の愛情』。これは、もしかすると迷宮ではないのかもしれないわね。」

真澄は夏旺の訳を覆すような言葉を述べた。

「迷宮ではないとすれば?」

「これは、あくまでも私の感じた考えよ。決してそれが正解と思わないでほしいの」

「はい。大丈夫です」

「迷宮とは何?夏旺君」

真澄の突然の質問に夏旺は焦った。戸惑って入ると、メモボードがヴォイスメールを受信した。樹からだ。

「夏旺今どこにいる?お前が忙しくしている間にイロイロ大変だったんだぞ」

「樹、ちょうどいいとこに」

「ん?何だよ」

「迷宮って何だ?」

「はっ?何言ってるんだお前、古文書の読みすぎで頭おかしくなったか?」

「まぁ、そのとおりさ。はははっ」

「はははっ。って笑い事じゃないだろう。迷宮?ラビリンスがどうしたって?」

樹の言葉に夏旺は鋭く反応した。

「そうか・・・・・・。ラビリンス。ラビリンスだよ。真澄先生」

真澄は大きく頷いた。

「おーい!!何だよ夏旺、真澄先生のとこにいるのかヨ!!マジで頭おかしくなっちまったのか?」

樹のヴォイスメールを無視し、夏旺は真澄に尋ねた。

「先生。ラビリンスってことはつまり迷路・・・・・・。
曲がりくねったいくつもの道を、いつたどり着けるか分からない、もしかしてゴールなんてないかもしれない道」

「そう、曲がりくねった。捻じ曲がった道。」

「そう、そしてそれは、捻じ曲がった愛情・・・・・・。
言葉は怖いね、先生。解釈ひとつですべてが変わってしまうこともあるから」

真澄は再び大きく頷いた。上げられた顔は、今まで見たこともないような悲しい顔をしていた。
その後に続く『破門』『復讐』の言葉の解釈など、もう必要ではなかった。

「おーい!!夏旺いったい何があったんだよー!!古文書の謎でも解けたのかよぉー」

相変わらずヴォイスメールで叫び続ける樹に夏旺は言った。

「大切な話がある。今から行くよ」

夏旺は真澄に深々と礼を述べて、診療室から出て行った。

 

因縁

「こうして集まってもらったのは夏旺が解読した古文書の内容を
皆にも知ってもらいたいと思ったからだ。いや、知るべきだと」

瑠璃色の瞳に力を込め、樹がリーダーの風格を携えながら話し始めた。

「インベルノの教会からこの古文書とワイングラスが発掘されたってことは皆知っていると思う」

樹の言葉を追うようにして、夏旺が話を続けた。
エスターテ化学技術省諮問科学研究所の一室はシンと静まりかえっている。
皆、夏旺の口から出てくる次の言葉を待っているのだ。

「エスペランサ、フェイネル、スティラート、クレルフィデス、エリュージュ」

夏旺は自分を入れた5人のミドルネームをひとりひとりの目を見ながら読み上げた。

「何だよ改まって」

輝がいぶかしげな表情をしながらダークブラウンの髪をかきあげた。

「まあ、焦るなよ。で何なんだいったい」

冬星の低くそれでいて鋭い声が夏旺から言葉を引き出した。

「あったんだよ。俺たちの名前が。この古文書に」

輝、冬星、そして希の3人は一瞬言葉を失う。そんな3人に向かって樹が話をつなげる。

「つまり、そうゆうことだ。因縁と言うか何と言うか、俺たちの運命は決められていたってことだよ。
この龍の水晶を渡された時からいや、そのずっと昔から」

「で、その他にはなんて書いてあるのさ、その古文書には」

希が身を乗り出して、古文書を覗き込む。

「まだ、すべてを解読したわけじゃないんだ。ただ、俺達5人の名前と一緒に
『エンザーク』『シーリア』の名前も書いてあるんだな、これがまた。でも、それだけじゃななった」

夏旺はふーっと大きなため息をついた後話しつづけた。皆、夏旺の話に耳を傾ける。

「どうやら、エンザークには王女シーリアのほかに後継者となるはずだった王子がいたらしい。
名前はおそらく『クロース』。彼はかつて国の後継者として『勇者の唄』というものを贈られてもいる。
そして、彼はあることをしでかして国を追放されたらしい。」

「あることっていったい?」

希の声が部屋に響く。

「おっ、龍のシッポに火でもつけたか?」

「まあ、そんなもんなら良かったんだけどな、輝」

あまりにも深刻なこの場の雰囲気に耐え切れず思わず冗談を言った輝に対し、
樹が苦笑いをしながら言葉で征した。

「ホントの所、正確には解読できていないんだが、
キーワードとして『捻じ曲がった愛情』ってのが書いてあったそうだ」

「『捻じ曲がった愛情』???何だそれ!?うん確かに龍のシッポとは関係ないな。」

と輝。

「その後に『破門』『復讐』とキーワードを読み取ったわけだ。そうだろ夏旺」

樹の表情がますます真剣になっていく。しばらく口を閉ざしていた冬星が急に立ち上がり、
部屋で唯一の窓に向かって歩き出した。

「なるほどね・・・・・・。『捻じ曲がった愛情』というものが、
『王子・クロース』が誰に対して向けていたか、またそれがどれほどまでの愛情だったかは
確かにそれだけでは分からない。しかし、そのことで国を『破門』となり、
そして『復讐』の鬼となってエンザークを狙っているとしたら。
その『復讐』とやらが今現在のゴタゴタと関係しているとしたならば・・・・・・」

「そうゆうことかよ」

「ああ、そうゆう事だ輝」

樹の言葉に希が返す。

「ようするに、ぼく達の敵は『王子・クロース』なの?」

「それは分からない。しかし、たぶん・・・・・・。それに『勇者の唄』というのも気になる。
そしてまだ解読されていないこのワイングラスのことも」

夏旺が古文書を丁寧に空気によってシールドされたケースにしまいながら言った。
窓の外には機械的なそれでも爽やかな風が吹いていた。

 

勇者の唄

 

♪・・・・・・You don't hove to prove yourself to me, your future, or to anyone.・・・・・・♪
♪・・・・・・If you have done your best, that's all that matters.・・・・・・♪

光ひとつない闇の中から歌が聞こえる・・・・・・。

あの唄だ。







何故、あの世界に未練があるのか。

何故、エンザークの王女を――――――――彼女を追ってしまうのか。

シーリア。

青碧の瞳。風に靡く金色の髪。

我は闇――――――魔界の力こそ我の力ではなかったのか。

しかし。

あの輝きが懐かしい

シーリアと、あの世界。

この唄。この想い。

手に入れる。    何としてでも。








我、妹よ。

つづく

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