<カプーチーノをひとつ。>

 

このカフェを彼女が気に入っている一つの理由は、

店内すべてがノースモーキングだというところにある。

店に漂う挽きたてのコーヒー豆の香りを楽しみながら、

おいしいカプチーノを飲むのが彼女の至福の時でもある。

 

「カプチーノをひとつ。エスプレッソをダブルで」

 

彼女はいつものメニューを注文し、

出来上がるのをいつものテーブルで待つ。

 

このカフェを彼女が気に入っているもう一つの理由は、

ステキなバリスタがいるということだ。

端整な顔立ちをしたその彼は、

以前は、雑誌のモデルもしていたこともあるという。

彼お目当に、と言ってしまえば簡単だが、

彼に対して恋愛感情があるとか、そんなものではないらしい。

彼を見ているとひとつの絵画を観ているよう、

そんな気分だと彼女は言う。

 

「お待たせいたしました」

「ありがとう」

 

それが二人のいつもの会話だ。

 

そして、今日も彼女はそのカフェへ向かう。

彼が淹れてくれたカプチーノに逢うために。

ただ、彼女はまだ知らない。

彼女に対して入れるカプチーノのフォームミルクにだけ、

ハート型の絵が描かれていることを。

   

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