<歯ブラシのように>

 

シャワーの後のバスタオルを巻いたまま、彼女はフロアに横たわっていた。
板張りのフロアが、ほてった肌にひんやりと心地好かった。

「ベッドで寝ろよ」

ボクサーショーツ一枚だけでベッドの上にあぐらをかきながら彼は言った。

「いいのよ、ここで。そのベッドでは眠りたくないわ」

「二人で寝るのが狭苦しいなら、俺がフロアで眠るから」

「違うわよ、そのベッドがイヤなのよ」

「なぜ」

「ねぇ、私と別れていた2年間のあいだで、
何人の女性がこのベッドで眠ったの?」

「おい、どうした?」

「別にどうもしないわ。
ただ、他の女性を寝かしたそのベッドで眠りたくないの」

「今まで、そんなこと言ったことなかったじゃないか」

「あら、あれから2年もたっているのよ」

「俺が何人の女とつき合ってきたかなんか
気にしないって言ったのはお前だぞ」

「ええ、今でもその気持ちは変わっていないわよ」

「なら、問題ないだろ」

「イヤだわ、そのベッドだけは絶対にイヤだわ!」

「頼むよ、そこら辺にいる、物分かりの悪い女にならないでくれよ」

「自分でも驚いているのよ、こんな気持ちになるなんて。
これが、嫉妬というモノかしら?何だか楽しいわね、嫉妬って」

そういって彼女は笑った。

「ふざけないでくれよ」

「ふざけているつもりはないのよ。ただね、
そうね例えば、見ず知らずの人が使った歯ブラシをあなたは使える?」

「まぁ使いたくないな」

「でしょ、それと同じよ。他の女性が眠ったベッドでなんて眠れないのよ」

「うーん。それじゃ、俺自身はどうなるのだ」

「それは別にいいのよ、気にならない。
人間には受け入れる意思や拒否できる言葉を持っているんですもの。
けれどベッドは、ただこうして横たわっているだけ。
来るものは拒まずって感じで」

フロアにぴったりとつけていた頬を話ながらそう言った。
そして、立ち上がった彼女は、キッチンに向かって歩いていった。
彼はその後ろ姿をじっと見つめている。
ほどよく筋肉が付いた二の腕とふくらはぎが、彼女の魅力でもある。
今は、バスタオルの下に隠れている美しい体のことも、
自分は知っているのだと思うと、
彼は一人優越感というものに浸ることができた。

彼女は、アイスボックスからよく凍った氷をひとつ取り出し、
ボリボリと食べはじめた。そして、こう言った。

「2年前、ここに残しておいたはずの赤い歯ブラシのように、
そのベッドも捨ててしまえばいいのよ」

 

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