<聞こえないメッセージ>

 

  呼び出し音が彼の部屋に響いた。
  留守番電話の声だけが彼女の耳に届く。

  「はい、ただいま外出しております。
  発信音の後にご用件をお願いします」

  彼女はメッセージを残さなかった。
  受話器を置いた彼女は、携帯電話の方にかけ直すことも考えたが、
  この時間帯で家にいないというのであれば、
  きっと仕事で接待中か何かだとわかっていたし、
  急ぎの用でもなかったのでまた別の機会にかけ直すことにした。

  1時間後、彼女の部屋の電話が鳴った。
  冷凍庫でキンキンに冷やしたズブロッカを生で楽しんでいた彼女は、
  左手にグラスを持ち変え、空いた右手で受話器を取った。

  「もしもし」

  「何の用だったんだ?」

  先ほど電話をした相手が唐突に言った。

  「何がよ?」

  「無言電話、入れただろう」

  疑うこともせず、彼は彼女が犯人であることを知っていた。
  理由は簡単だ。それが彼であり、彼女であるから・・・。

  「あらら、分かってしまったのね」

  「当たり前だ」

  「用なんてないわよ?」

  ちょと酔っ払った口調で彼女が答えると、彼はこう続けた。

  「分かった、俺の声が聞きたかったんだろ?」

  冗談まじりの口調。
  彼女は持っていたグラスの中味を一気に飲みほして言った。

  「そうよ」

  「ほんとかよ!?」

  今までにはない彼女の素直な言葉に彼は少し驚き、にやけてもいた。

  「本当よ。けなげでしょう?今はただの男友達、
  そして少し前まで恋人だった昔の男の声を聞きたくなるなんて」

  「そう、ハッキリ言われてしまうと色気がないじゃないか」

  「いいわよ今更なくたってそんなもの。ほっといてちょーだいよぅ」

  冗談まじりに少し酔いのまざった口調。

  「無言なんて入れられて、ほっとけるか、バカ」

  彼はタバコの煙を吐き出しながら
  受話器を少し離してこうつぶやいた。

  「ほおっておいたのは・・・俺か・・・」

  彼女には聞こえなかったらしい。
  いや、聞こえない振りをしているだけなのかもしれない。

  「え?何?聞こえない」

  彼女は微笑みながら言い返した。
  そんな彼女の態度に、彼も微笑んでいた。

 

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