<夏の空>

 

目覚し時計の針は午後の1時をまわっていた。
彼女は彼の身体に寄り添いながら眠っている。
夏の暑さと彼女の体温で汗ばんでいる彼の腕は、
彼女の枕になっていた。
寝返りをうちたいと彼は思った。彼女はまだ眠っている。
『こんな暑い日によくもこんな時間まで眠っていられるものだ』
と思いながらも、そうやって10分が過ぎていった。
彼女の目が微かに開いた。

「起きたか?」

「ん・・・・・・。でもまだ眠い」

昨夜は、大学時代の仲間が大勢集まり、
彼女も久しぶりにアルコールをたくさん飲んだらしく
午前4時を過ぎていた。

「お前、昨日の記憶あるのか?」

しょうがない奴だなという顔をしながら彼が彼女の顔を覗き込んだ。

「なんとなく」

目をこすりながら彼女はまだ眠りつづけようといている。
しばらくの沈黙のあと、彼が言った。

「腕はなくても平気だろ?」

「平気。ごめんなさい、疲れたでしょう」

彼女は彼に言われて、自分の頭が彼の左腕を
独占していることに気がついた。そして、そっと首をあげた。
彼は彼女の身体に絡んでいる汗ばんだ自分の腕を、
自分のもっとも楽な位置に戻した。念願の寝返りをうち、
しばらくして彼はベッドから立ち上がり、
ソファに置いてあったジーンズを拾い上げ足を通した。
バックルの金属音に彼女は目を覚ましつつあった。

「どこかおでかけ?」

のほほんとした声で彼女が言う。

「出て行くよ。荷物は後で取りにくる」

彼は彼女にとって思いもよらない言葉を発した。

「なに、言ってるの???」

彼は、Tシャツを右手に持ちながら、ドアに向かって歩いていった。
彼女は自分の眠気がどこかに消えていまったように思えた。

「ちょっ、ちょっと何言ってんのよぉー!」

彼女の叫び声にも似た言葉に彼は振り向いた。

「俺の腕はなくっても平気とさっき言ったろ」

そう言って彼はドアを閉めた。

 

ドアの外は、気持のいい夏の空だった。

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