<流星>

今日は、とても大切だった人の命日です。
26歳という若さでこの世を去った大好きだったあの人の。

「ママ、ママ」
3歳になる子供が、彼女の顔を心配そうに覗き込む。
「何でもないのよ、大丈夫」

結婚してもうすぐ4年目になる彼女は、涙を流していた。
現実と理想とのギャップに切なさを覚えて。
夫を愛していないわけではない。
夫もまた彼女を愛してくれている。
でもたまに、ふっと寂しく切なくなることが彼女にはある。
例えば今日。昔大好きだった人の命日だとか。
そんな時は何に対してもセンチメンタルになってしまう。
過去の記憶から抜け出せなくなってしまう時がある。

「ママ?ママ?」
子供はまだ心配そうにしている。
彼女は「大丈夫、大丈夫」を繰り返す。
でも、心の中は不安でいっぱいだった。
彼女の心は大切な人を失った痛みから
まだ立ち直っていないのかもしれない。
『私の結婚生活はこれでよいのだろうか?
この幸せは本物なのだろうか?
いつまでも続くものなのだろうか』
そんな思いが頭の中をグルグル、グルグルと巡っている。
切ない言葉と不安で、
彼女の体の中は埋め尽くされている。

「大丈夫、大丈夫」
を言いながら、彼女が大粒の涙を流したその瞬間、
「ママ、ママ」と心配そうにしていた子供がこう言った。
「ねーね。大丈夫だよ、僕がいつも見守ってるから……」
彼女は驚きと懐かしさで、とっさに子供を抱きしてめいた。
いや、抱きしめたのではない。
本当は「あの人」に抱きしめられていたのかもしれない。

彼女の名前は「美音子」という。
しかし、彼女を「ねーね」と呼んでいたのは
この世の中でたった一人、あの人しかいない。
そう、大好きだったあの人しか。

「ママ、ママ、痛いよう」
強く抱きしめられていた子供が、我に返ったように言う。
「ごめん、ごめん。おやつにしようか」
彼女は子供の体から腕を放し、涙を手でぬぐった。
「おやつ、おやつ」
嬉しそうな子供の顔を見て彼女は、
今の幸せが本物であることを確認する。
そして、あの人がいつも見守ってくれていることも。

人は死んだら星になる。そう昔から言われていた。
ならば、シシ座流星群が降り注いだ夜。
何人もの人が誰のもとに生まれついたのだろうか?

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