<最後位・・・。>

 

彼は、回転ドアを押し、店の中に入っていった。
一番奥の二人で座るのが適当である席に、
一人きりで座っている彼女の所へ歩いていく。
少しシャギーの入った髪が、
丁度肩にあたって外に跳ねている。
そんなヘアスタイルをしている彼女。
歳は、25になったばかりほどだろうか。
瞳の色はチャコールで、吸い込まれるような色だ。

「早かったじゃないか。いつもは、遅れてくるのに」

彼はそういいながら、彼女の前に座り、
胸ポケットから煙草を取り出した。
ウェイターには、エスプレッソをオーダーした。
ここのエスプレッソは美味しい。
彼の中でひとつのお気に入りのアイテムになっている。

 「今日は特別の日だから」

彼女は、先ほどの彼の質問に答えた。

 「何故?」

 「さぁ・・・・・・。あなたが良く知っているはずよ」

そう言って彼女は、コーヒーで唇を潤した。
店内では、スウィングジャズが、
心地好い音量で流れている。
曲と曲のとの間のほんの少しの空白の時間を
きっかけにして、彼は話をはじめた。

 「おい・・・」

 「何?」

 「俺達、どのくらいになる?」

 「付き合ってからということ?」

 「ああ」

 「半年ちょっとかしらね」

 「そうか・・・まだ半年か」

 「・・・もう、半年よ」

 「もう?」

彼女の言葉に、彼は戸惑っていた。
付き合いだして半年という月日を長いと感じるか、
短いと感じるかは、人それぞれの価値観と
今までの恋愛経験を物語るかのような
意味合いをも、持っているからだ。

 「・・・。で、話って?」

 「んー」

 「何?」

下をうつむく彼を覗き込むようにして、
彼女は言葉を発する。

 「本当に言ってもいいのか」

 「それを言いたくて、
 今日こうして呼んだのでしょう?」

 「では言おう。俺達、もう終わりにしよう」

 「ええ、そうね」

彼女は彼の言葉に即答した。驚きの顔などない。
だからといって、悲しんでいないというわけでもない。

 「随分、落ち着いているんだな」

 「そうでもないのよ。
  ただ、なんとなく予感はしていたのです」

 「どこまで気が付く女性なんだ君は」

彼は、彼女のそんなところが好きになって
付き合い始めた。別れようしている今でも
彼にとっては、好きな部分のひとつとして残っている。

 「理由は聞かないのか?」

 「聞いたって、いまさら意味はないのでしょ?」

 「それもそうだな」

 「でもね、今日は一日中一緒にいてね」

彼女は、すっきりとした表情で言った。

 「ああ、俺もそのつもりだ」

彼が灰皿に煙草を消しつけた時、
先ほどオーダーしたエスプレッソを
ウェイターが運んできた。

 「それ、飲み終わったら、出ましょう」

そして、こう付け足した。

 「最後位、私に払わせてね」

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